慶應義塾大学 環境情報学部および総合政策学部の1〜2年生を対象に、レーザーカッターで加工されたMDF(繊維板)、電子部品などで構成される100ドル3D工作機械「OCPC Delta Kit」を用いた授業が行われた。仕掛け人は、同学 環境情報学部 准教授の田中浩也氏だ。記事後半では、未来の図書館や博物館に設置されるかもしれない3Dプリンタを紹介する。
“3Dプリンタのようなキット”を学生らに配布し、組み立て、動作確認を行った後、それを「個人的に何かの役に立つ工作機械(ロボット)」に仕立て上げるという大変興味深い授業(「デザイン言語実践」の4つの演習のうちの1つ)が、2015年12月17日〜2016年1月14日の期間、慶應義塾大学 環境情報学部および総合政策学部の1〜2年生を対象に行われた。
デザイン言語実践は、モノづくりやデザインに興味のある学生向けの入門的な位置付けの内容で、4人の教授が授業を受け持つ。その1人が同学 環境情報学部 准教授の田中浩也氏だ。今回、100人弱の学生を25グループに分け、それぞれのグループにレーザーカッターで加工されたMDF(繊維板)、電子部品(Arduinoやサーボモータ)、ネジ/ナットなどで構成される「OCPC Delta Kit」を配布し、全4回の授業で組み立て、動作確認、アイデア検討、発表会までを行う。
OCPC Delta Kitの「OCPC」とは“One CNC per Child”の略で、発展途上国の子どもたちに100ドルPCを提供しようと活動してきた「OLPC(One Laptop per Child)」のように、100ドル以内でコンピュータによる数値制御が行える工作機械を実現しようとするもの。「OCPC Delta Kitは、100ドルでPCを作ろうというOLPCの思想や、米ミシガン大学で行われている1人1台3Dプリンタを作る授業などからインスピレーションを受け、約1年前に考案・企画したものだ。当初はミシガン大学にならい、3Dプリンタを作れるキットにしようと考えたが、私の研究室に所属する学生が3Dプリンタをハックして『3Dふりかけプリンタ』を作ったこともあり、3Dプリンタに限らない工作機械(ロボット)を自由な発想で作れるキットにすることにした」と田中氏は説明する。
OCPC Delta Kitは、慶應義塾大学 田中浩也研究室で企画から設計・試作、量産まで行っている。OCPC Delta Kitのレーザーカッター用のデータや必要な電子部品のリスト、工具類、そして組み立ておよび動作確認の手順などについては、Fabプロジェクトのためのプラットフォーム「Fabble」にて公開されており、オープンソースとして誰でも自由に利用することができるという。「現在公開しているものが、完璧に使いやすいものかというとそうではない。まだファーストバージョンの段階で、実は電源スイッチもない状態だ。オープンソースとして公開しているので、いろいろな人が改善に関わってくれたらと思う」(田中氏)。
同授業の対象者は理系とも文系とも限らない。当然、全4回の授業ではArduinoを用いたプログラミングや電子回路設計、機械設計などの詳細は説明し切れないが、最低限知っておいてもらいたい知識にポイントを絞りながら、機械や回路の基本的な仕組み、手を動かし小さな部品を組み合わせながらモノを作り上げる作業などを、体系的に学ぶことができる。
「これまでも3Dデータをモデリングするとか、3Dプリンタで何かを出力するといったデザイン側の授業はやってきたが、3Dプリンタのような工作機械そのものを組み立てる授業はやったことがなかった。また、あえて3Dプリンタキットにしなかったことで、最終的にどのようなオリジナルの工作機械(ロボット)に仕上げてくるのか、各グループの独自性が出せる要素も教材として面白いと思う」と田中氏は説明する。
企画・構想から1年、OCPC Delta Kitを用いた授業はスタートしたばかり。今後の展望について田中氏は、「とにかく初めての挑戦だったので、まずは今回の25グループの成果をきちんと見届けたい。恐らく、さまざまな工作機械(ロボット)のバリエーションが期待できるだろう。また同時に、3Dプリンタとしても使えるようにキットの完成度を高めていきたいとも思っている。今後は授業を活用しながらブラッシュアップを図り、教育的価値を高めていきたい」と語る。
前述した通り、OCPC Delta KitはFabbleにて、オープンソースとして公開されている。加工にレーザーカッターが必要になる点は1つハードルではあるが、興味を持たれた方はFabbleの内容を参考に、OCPC Delta Kitの製作にチャレンジしてみてはいかがだろうか。
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