3Dプリンタ住宅メーカーのセレンディクス 執行役員 COO(最高執行責任者)の飯田國大氏に、住宅産業をロボット化する狙いや、その中での3Dプリンタの役割、今後の取り組みなどについて話を聞いた。
住宅は個人が購入する中で「最も高い買い物」と言われ、その購入は人生プランを大きく左右する。そんな住宅を「クルマが買える値段」にまで下げようとしているのが、3Dプリンタ住宅メーカーのセレンディクス(兵庫県)である。
同社は、連続起業家である小間裕康氏(セレンディクス 代表取締役 CEO)と飯田國大氏(同社 執行役員 COO)(図1)によって、2018年に創業された。小間氏は電気自動車(EV)バンのフォロフライなども経営しており、飯田氏は情報機器や住宅関連企業を経営してきた。
セレンディクスは現在、2人世帯タイプの量産化や新素材開発の協業、2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)の出展に向けた取り組みなど、活発な活動を展開している(図2)。政府の“2027年に時価総額1000億円企業を100社作る”という「J-Startup 育成計画」の企業にも選ばれている。
同社の飯田氏に、住宅産業をロボット化する狙いや、その中での3Dプリンタの役割、今後の取り組みなどについて話を聞いた。
――なぜ、3Dプリンタによる住宅の製造に取り組むのでしょうか?
飯田氏 スタートアップの存在意義は課題解決にある。われわれにとっての解決すべき課題は、30年という長い住宅ローンだ。「もしクルマが買える値段で家を買えたら、人生がもっと自由になる」という思いがスタート地点にある。われわれの最終目標は、100m2の家を300万円で提供することだ。2025年以降には量産体制を確立していきたいと考えている。
3Dプリンタを活用することにより大幅なコストダウンが可能になるが、3Dプリンタさえあれば家が作れるというわけではない。素材開発から施工までを1社でカバーするのは不可能だ。そのため、協力企業を募っており、現在その数は270社以上になっている。われわれは住宅産業の完全ロボット化を目指している。
――セレンディクスは建設用3Dプリンタを開発しないのでしょうか?
飯田氏 われわれは3Dプリンタ住宅を製造販売する会社であり、3Dプリンタは開発しない。なぜなら3Dプリント技術は既に汎用(はんよう)化し始めているからだ。また、われわれは世界中どこであっても現地の3Dプリンタを通して出力することを目指している。
2024年2月には、ウクライナの戦後復興住宅を建設するための覚書を現地の3Dプリント会社や建設会社と交わした。設計データの無償提供などを行い、ウクライナで開発され、現地に設置された3Dプリンタで出力する。タイとインドネシアでも、現地の企業が所有する3Dプリンタと材料を使用した実証実験を行う計画だ。
――セレンディクスは、現在どのような3Dプリンタを所有していますか?
飯田氏 最初に購入したのは、オランダのTwentive Additive Manufacturing(以下、TAM)製の60m2の出力が可能なロボットアーム型3Dプリンタだ。指定材料を使う必要がないため、「serendix10」の2棟目以降では、われわれが国内で開発した材料を使用している。
2022年には、世界で最も古い建設3Dプリンタメーカーである中国のWinSunの装置も導入した(図3)。これはガントリー型で100m2の出力が可能だ。オランダのVerticoの3Dプリンタも6月に到着する。これ以外にもさまざまな世界最先端の3Dプリンタがある。特定の装置に限定せず、さまざまな3Dプリンタで出力できるよう開発を進めている。現在、協力企業を含めて全部で5台の3Dプリンタを所有しており、今夏に9台、12月には12台になる計画だ。
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