――最初に発表したserendix10(図4)は球状で、出力が難しそうに感じますが?
飯田氏 われわれはよく、serendix10を“スポーツカー”と表現している。つまり、私たちの技術力を示すための製品だ。オーバーハング(張り出した形)をサポートなしに出力することは非常に難しい。一方、60歳以上の夫婦からの多くの声を受けて開発した「serendix50」(図5)は、550万円という抑えた価格で住宅を供給するという目的があるため、できるだけ施工自体は簡単にしている。屋根はCNCカッターで合板を切り出すデジタルファブリケーションの手法を用いている。
――サポート材料を使用することはないのですか?
飯田氏 serendix10の出力ではサポートをほとんど使用していない。TAMの3Dプリンタを購入した当初、一層出力するたびにサポート代わりの砂を3人がかりで入れていた。せっかくオペレーター1人でできることを、大人数でやるのでは意味がない。そこで、オーバーハングが出力可能な材料を協力企業と開発した。海外の3Dプリンタ住宅メーカーは壁しか出力していないので施工に半年かかり、コストも3割程度しか下がっていない。私たちは屋根まで3Dプリンタで出力できるようにすることにより、施工時間を24時間、価格も一般的な住宅の10分の1に抑えている。
――施工現場での出力は考えていませんか?
飯田氏 現在のところは考えていない。3Dプリンタは温度や湿度の変化に非常に影響を受けやすい。日本は四季があり、日々の天候の変化も大きい。特に、われわれはスピードを重視しているため、天候に左右されない安定した環境の工場内で出力してから輸送する方が、はるかにメリットがあると考えている。
――建物の耐震性はどのように確保しているのでしょうか?
飯田氏 われわれは、KAPという国内トップレベルの構造設計事務所に支援していただいている。デジタルデータでシミュレーションを行う一方で、出力物に力をかける試験を継続して行っている(図6)。兵庫県には世界最大の耐震実験施設があり、こちらを利用した3Dプリンタ製の建物の実大振動台実験も行いたいと考えている。
――3Dプリンタのメリットの一つとして、多種多様な形状を作成可能であることが挙げられますが、それを生かす予定はありますか?
飯田氏 自由な形、つまり間取りを顧客が自由に決めるということは、住宅における大きな問題の一つだと認識している。なぜなら、ある人が決めた間取りが他の人にとって最適だとは限らないからだ。自由な間取りは中古住宅が売れない原因となっており、空き家問題を引き起こしている。中古マンションが売れるのは標準的な間取りだからだ。海外では中古住宅市場があり、休日には自分たちでペンキを塗るなどDIYを楽しんでいる。われわれの住宅は寿命が長い。固定した間取りを提供し、内装は好みに応じて自由にしてもらうのが一番良いと考えている(図7)。
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