――「住宅産業のロボット化を目指す」と常々語っていらっしゃいますが?
飯田氏 自動車は職人による手作業から工場での量産、ロボット化へと進み、一大産業となった。住宅も職人が作っているので高価になる。3Dプリンタを使うことは住宅産業のロボット化の始まりだと考えている。
われわれは、serendix10やserendix50の初期の販売を6棟としているが、これはトヨタ自動車に倣ってのことだ。トヨタ自動車が自動車製造に乗り出したときも、最初は6台だけ販売し、フィードバックをもらいながら量産化していったそうだ。今までに住宅に関する問い合わせは1万件を超え、実際に購入意欲を持つ方については3000件近くあるが、最初の6棟については、リスクも理解しつつ一緒に育てていただける方にお渡ししている。
――本体以外にロボット化される工程はどこがありますか?
飯田氏 通常の鉄筋コンクリート(RC)造では建造後に塗装の工程があるが、われわれは前もって工場で行っている。これを機械化(ロボット化)することは難しくない。基礎については、serendix50では型枠を3Dプリンタで出力して現地に運び、コンクリートを流し込んでそのまま基礎の一部として使用する。電気工事も工場であらかじめ配線のセットを作り、現地で接続するだけにしようと検討している。こうすれば200万円といった電気工事も10分の1ほどになるだろう。
――AGCセラミックスと協業されるということですが、セラミックをどのように使うのでしょうか?
飯田氏 セラミックは意匠性や耐水性などコンクリートにない要素を持っており、資源としても無尽蔵にあるので、将来的には3Dプリンタ住宅の材料として非常に有望だと考えている。
――serendix10はRC造、serendix50は鉄骨鉄筋コンクリート(SRC)造としています。鉄筋などを使わず3Dプリンタ住宅を建てることは考えていますか?
飯田氏 今は現行の建築基準法の枠内で建築するために鉄筋などを入れている。だが、無筋化すれば施工時間やコストを削減でき、鉄のサビがなくなるため耐用年数も延びる。今後の開発の流れにもよるが、次の方向として考えている。
3Dプリンタで出力した材料自体を構造部材(構造耐力上主要な部分に使う部材)として使用するための指針は既に国土交通省から出ている。現行法で構造材として使用できる「指定建築材料」以外の新しい材料を使う場合は、第1ステップとして、個別の建物で、建築物の安全性を証明するための、国土交通大臣の認定(大臣認定)を取得する必要がある。この実績を複数作った上で、次のステップとして、出力材料に対して指定建築材料としての大臣認定を取得する。
われわれもこのステップを踏んでいく。まず第一歩として、広島県によるスタートアップ支援「サキガケプロジェクト」において、大林組と協力し、超高強度繊維補強コンクリート「スリムクリート」を用いたserendix10の実証実験を行った(本施工では鉄筋も使用する)。スリムクリートは大林組が開発し、2023年に3Dプリンタ建築物の大臣認定を取得した実績を持つ材料だ。こういった形で少しずつ無筋に向けた動きを進めていく。
――「住宅の製造業化」とも言えそうで興味深いですね。
飯田氏 製造業も住宅も、デジタル化により飛躍的に生産性を上げることが可能だと考えている。デジタルであれば、世界中にデータを送って作ることもできる。製造業を完全にデジタル化していくことは、今後の日本の大きな強みになっていくだろう。
――ありがとうございました。
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