作業標準書の目的は2つあります。1つ目は「標準化そのもの」です。例えば、初めてその仕事を行う人がいる時、作業を指導するなどのために標準書を作成します。一種のマニュアルとして使うわけです。もう1つの目的は「標準通りにできない(できない)場合の早期発見・早期処理」です。作業の着手前や作業中にその通りにできない(早くできる場合も含む)ことが分かったときは、その場で指導を行う(受ける)というルールを徹底します。これは、多くの場合、標準作業の理解ができていない場合と、標準通りに作業が遂行できない場合に発生します。つまり、異常の発生をいち早く報告してもらうことで、その場で、その異常発生の原因究明を行って、すぐに改善できるわけです。
現場の管理者が、日常業務の中で異常の処理に時間を費やしていないとすると、「標準そのものが甘い」ともいえるかもしれません。「甘い標準」は、行動も甘くなってしまい「低水準のQ、C、D(Quality、Cost、Delivery)」となることを意味します。十分に注意しなくてはなりません。
しかし一方で、「標準書は完全な検討結果を基に設定しなければならない」というわけではありません。標準書を作成するときに、残された問題や、今後検討しなければならない事柄などを明記し、関係者の同意が得られればよいのです。そのため、作業標準書には、必ず「目的と考え方」と、「なぜそうするのか」を明らかにしておく必要があります。標準書はあくまでも改善の道具であり、「言われた通りに黙ってやれ! 」と方法を縛り付けるものではありません。そのような使い方をしていると、決して自主的な改善が進むことはありません。
また、標準書が使われている状態とは、以下の状態を指しています。
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例えば、保育園児が、先生から「片付けましょうね! 」と言われた時に、その片付け方のイメージが分からずに、先生のすることをジーッと観察するという話があります。これと同じようにわれわれも「改善しよう!」と言われても、改善とは何かについてのイメージと、そのことに対する全員の同意を作り上げておかなければ、どうしてよいか分からず、掛け声ばかりで実行に至らない状態となってしまいます。
また「言われた通りにやれ」と言われて育ってきた人でも「ここがやりにくい」や「ここが疲れる」など、日頃の作業を通して問題意識を持つ人は多く存在します。ただ「仕事とはそんなもんだ」と諦めているだけなのです。こういう状況から脱却していくには、改善のための雰囲気作りを進めていくことが大切です。マッサージのように次第にこのような考えを持つ人々の心をほぐしていくことが重要です。間違っても「やる気のない人間がいる」というような発言は厳禁です。そういう人たちには、どのようなマッサージをしていくかについて、ぜひ考えていただきたいと思います。
人は、何かを理解しようとするとき、自分の過去の経験などで判断します。従って、一人一人の理解や考え方が異なるのは当然のことといえます。全員が改善活動に動機付けられ、自ら考え自主的に改善が進められるような企業文化を創出していくことが重要です。そのためには、自分自身が会社や職場の将来、改善の目的・目標を明らかにし、ムダ作業・ムリ作業の見つけ方と排除の技術などをあらかじめ学習しておかなければなりません。そして、さまざまな考え方を持った人たちに、自分の意思や主張を十分に伝えられるコミュニケーション能力を身に付けることが大切です。
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MIC綜合事務所 所長
福田 祐二(ふくた ゆうじ)
日立製作所にて、高効率生産ラインの構築やJIT生産システム構築、新製品立ち上げに従事。退職後、MIC綜合事務所を設立。部品加工、装置組み立て、金属材料メーカーなどの経営管理、生産革新、人材育成、JIT生産システムなどのコンサルティング、および日本IE協会、神奈川県産業技術交流協会、県内外の企業において管理者研修講師、技術者研修講師などで活躍中。日本生産管理学会員。
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