電気自動車(EV)ベンチャーのSIM-Drive(シムドライブ)は、試作EVの4号車「SIM-HAL(シム・ハル)」を発表。これまでの先行開発車での技術成果や経験を生かし、走行距離をはじめとするEVの課題をクリアした。今後は「EV実用化」に向けた開発に本格的に乗り出す。
電気自動車(EV)の技術開発ベンチャーであるSIM-Drive(シムドライブ)は2014年3月31日、東京都内で会見を開き、2013年2月より約1年間かけて開発してきた試作EVの4号車「SIM-HAL(シム・ハル)」を発表した。これまでの試作EV開発における技術成果や経験を生かし、走行距離などの課題をクリアしたとする。
シムドライブ会長の福武總一郎氏は、「2014年度はこれまで行ってきた先行車の開発をいったん棚上げにして、EVの実用化に向けた開発に重点を置く」と語り、試作EVの開発プロジェクトをベースにした研究フェーズから、EVの実用化に向けた事業化フェーズに移行する方針を明らかにした。そのために、パートナー企業との協業による実用EVの開発とその具現化、新型インホイールモーターの開発/量産化、既存のガソリンエンジンをモーターに置き換える改造車の製作などに注力していく考え。その一環として、新たに開発した4種類のインホイールモーターも、SIM-HALと併せて発表している。
シムドライブは、これまで1号車の「SIM-LEI」、2号車の「SIM-WIL」、3号車の「SIM-CEL」と3台の試作EVを開発してきた。4号車となるSIM-HAL(High Efficiency All Wheel Link)の開発プロジェクトにおいて、これまでと大きく異なっているのが参加した機関や企業の数である。SIM-LEIとSIM-WILはそれぞれ34社、SIM-CELには26社が関わっていた。
一方、4号車の開発に参加した企業数は8社にとどまる。開発資金と人員数にも制約が発生したため、基幹技術の開発に集中する“省力開発”を目指すことになった。具体的には、SIM-CELの開発に用いていた車体骨格を有効に活用しながら、新型のモーター技術や4輪独立制御技術の開発などに重点を置いた。また、車体の開発や組み立てなどについては、タジマモーターコーポレーション(TMC)グループへの作業委託などを行ったという。
SIM-HALの開発にあたっては、「本格EV社会を切り拓く、次世代コアモデル」をキャッチフレーズとした。フル充電からの走行距離は404.1km、交流電力量消費率は86.9Wh/kmを達成した(いずれもJC08モード、計算値)。SIM-CELと比べて、走行距離が約80km伸びるとともに、交流電力量消費率は約4.7%削減されている。なお搭載電池容量は、SIM-CELの29.6kWhに対してSIM-HALは35.1kWhと18.6%多いが、走行距離の伸び率は24.7%と上回っている。
EVは、ヘッドランプやエアコンを使用しながらの実用走行時には、JC08モードの計測値よりも走行距離がはるかに短くなるという問題がある。SIM-HALは、この実用走行時の走行距離についても改善を図った。急速充電器による充電を完了した状態から、再度の充電が必要になる状態まで(充電率で80%から10%)、実用走行の条件下で走行させたところ、熱マネージメント技術を活用することで200km以上の走行距離を確保した。
前後左右の各車輪に新開発のインホイールモーターを組み込んでおり、最高出力は合計で260kW、最大トルクは2480Nm。時速0〜100kmの加速時間は4.70秒である。さらに、4輪独立制御による操作性、走行安定性の向上などにも取り組んだ。外形寸法は全長4910×全幅1835×全高1405mmで、車両重量は1510kgとなっている。
シムドライブ社長の田嶋伸博氏は、「EVは研究段階から事業化の段階に入ってきた」と話し、これまで先行開発してきた試作車をベースとしたEVの早期実用化を、国内外のビジネスパートナーに呼び掛けている。
会長の福武氏が話した通り、内燃機関車をEVに改造するEVコンバージョンにも取り組む予定である。これまでに、PSAグループの小型車「シトロエンDS3」をベースにしたコンバージョンEV「DS3 Electrum」を発表しているが、現在までにトヨタ自動車のスポーツカー「86」をEV化した「SIM-86e」の開発を完了したという。さらに、Mercedes-Benzブランドの名車「280SL」のEV化も予定している。加えて、EVの最大の課題である走行距離を延ばすため、バイオ燃料で発電を行うレンジエクステンダーの開発も進めていることを紹介した。
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