冷たいモーターが333km走行のカギ電気自動車 SIM-LEI(3)(1/2 ページ)

SIM-Driveが開発した「SIM-LEI」は1充電当たりの走行距離が333kmと長く、ほぼ同じ容量の二次電池を搭載した他社製EVの1.5倍以上走行できる。秘密は冷たいモーターにあった。

» 2011年07月14日 12時00分 公開
[畑陽一郎,@IT MONOist]

 電気自動車(EV)の走行性能を伸ばすためには、まず二次電池(バッテリー)の革新が欠かせない。これはEVに必要な技術のうち、最も未成熟なのが二次電池だという主張だ。二次電池はEVの部品の中で最も高価であり、搭載量を増やせばEVの価格が跳ね上がる。さらに、車体重量も増してしまう。これらのジレンマを解決するには高性能な二次電池が必要不可欠だという意見が多い。

 このような主張に疑問を投げかけたのが、SIM-Driveだ。SIM-Driveが開発した「SIM-LEI」は現在入手可能な二次電池を使い、電池の搭載量も変えずに走行距離を伸ばした。どのような手法を採ったのだろうか。第2回では、空気抵抗を削減する取り組みを紹介した。第3回は、駆動系(モーター)の革新である。

 「長距離走行を可能にしたSIM-LEIの駆動系を直感的に理解するには、モーター(図1)を触ればよい。他社の電気自動車(EV)では、高速走行後のモーターに触ろうとしても熱くて触れない。ところが、SIM-LEIのモーターは走行直後に触っても冷たい。これはモーターの効率が高いことを表している」(SIM-Driveインホイールモータ開発部 部長代理 新井英雄氏)。

ALT 図1 SIM-LEIの前輪 外観からは分からないが、モーターの回転子にホイールとタイヤがかぶさった形になっている。「エンジンルーム」にモーターを置くのではなく、タイヤ自体にモーターを内蔵する。

 SIM-LEIの駆動系の能力は、JC08モード*1)でSIM-LEIをテストした際の消費電力からも明らかだという(図2)。

*1)国土交通省が定めた燃費測定方式である10・15モードに替わって採用された燃費測定方式。市街地を対象とした10・15モードよりも日本国内の実際の走行パターンに即した燃費を表すことができる。

ALT 図2 車速と消費電力の関係 SIM-LEIをJC08モードで走行させた際の実験データ。約20分間のデータを示す。左縦軸と赤線は消費電力(kW)を、右縦軸と青線は車速(km/h)を示す。消費電力が0以下になっている部分は、車の運動エネルギーをモーターで電力に回生して、二次電池に蓄電している状態である。出典:SIM-Drive

 図2を見ると、減速した際、消費電力が即座にマイナス値になっていることが分かる。駆動用のモーターが発電機として働き、電力を二次電池に蓄積している状態だ。「回生能力が他のEVよりも圧倒的に高いことが、長い走行距離を実現できた1つの理由だ」(新井氏)。加速の際に消費電力が一気に増えることから、車の加速能力が高いことも読み取れる。

なぜ回生能力に優れるのか

 回生能力に優れる理由は3つある。

 まず、モーターの銅損、つまりコイルの導線の電気抵抗によって失われる電気エネルギーが少ないことだ。「特に加速減速時の損失が小さくなる」(新井氏)。2番目に、モーターとタイヤの間にギアが介在しないダイレクトドライブ方式を採用したことだ。エネルギーの機械的損失は、摩擦損とギア損からなり、そのうちのギア損を除外できる効果は大きい。エンジンルームにモーターを設置した場合と比較すると、摩擦損も減少するため、5〜7割も機械的な損失が減る計算になるという。3番目の理由は、採用した二次電池のパワー密度が高く、回生エネルギーを効率的に吸収できることだ。東芝の「SCiB」を用いた。

 SIM-LEIが内蔵するインホイールモーターは中心軸が固定されており、周囲が回転する、いわゆるアウターローター方式を採る。モーターの内側は固定子であり、コイルが巻かれている。外側の回転子には永久磁石が配置されており、その外側にタイヤがかぶさっている。固定子のコイルと回転子の磁石の磁気的な結合により回転力が発生する(図3)。

ALT 図3 モーターの内部構造 図右下にあるように、コイルを巻いた固定子(Stator)の外側に回転子(Rotor)が置かれている。図では2つの部品が分離しているが、実際には回転子の内部に固定子がはめ込まれている。図左は回転子と固定子の外観。固定子にはすきまなくコイルが巻かれている。出典:SIM-Drive
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