新たな試みも始まっている。農業用充電ステーションが設置された岩沼市の海岸部で2013年2月に設立された、農事組合法人の玉浦南部生産組合による取り組みだ。同組合は、玉浦南部地区の人々15人が構成員となっており、主に水稲や転作作物の農業経営を行っている。東日本大震災の津波によって多くの家屋が流されて何もなくなってしまった場所に、新たに大型の栽培用ハウスなどを設置するなどしている。
ここでは農業用充電ステーションの設置と連携して、他の組合と協力してEVを3台導入した。既に野菜の運搬などに活用し始めている。組合長の高橋英男氏は、「ここは一度ゼロになったのだから、元に戻すのではなく、新たなことに挑戦したい。津波で多くのものが流されたが、残ったがれきを撤去して土地を統廃合し、2013年にようやく10ヘクタールの稲作ができるようになった。2014年は耕地面積を100ヘクタールに拡大したい。ここから仙台までは30kmと近距離にあるので、EVを有効に利用して農業を発展させられれば」と語る。このような地域でも農業用充電ステーションを有効活用できるのかもしれない。
農業用充電ステーションの開所式の取材から、EVと農業は将来次のようなステップで連携が図れるのではないかと思われた。
岩沼市での実証試験を通し、農業用充電ステーション、EVなどに関する運用データを蓄積。さらに農機具や農作業に電力を供給する用途としての活用を探る。
岩沼市の周辺に複数箇所の農業用充電ステーションを設置。それによって、EVを使う農家も増やして、農家にとっての利便性を高める。また万が一の停電の際にも、系統電力の代わりにEVの電力を使用することができる。
岩沼市での実証試験の結果次第だが、成果が大きいようであれば、それを県内、県外含めて他地域にも展開できる可能性が出てくる。ここまでを含めて実証試験の段階ではなかろうか。
この段階では実証試験は終了しており、小型で安価な農業用充電ステーションをビジネスベースで展開できている可能性がある。
従来、あまり縁のなかったEVと農業であるが、農業用充電ステーションなどの実証試験と今後の展開により、新たなスマートアグリの姿が見えてくるかもしれない。
また今回のことは農家のみならず、都市部に住むEV使用者にも関連がある。もし上記のステップ(4)まで浸透が始まると、これまで都市部や道の駅などに設置されてきた急速充電器が、農村部にまで広がることを意味する。農業用充電ステーションが、農家のみならず、都市部のEV使用者や観光客も利用可能になれば、EVの活動エリアはさらに大きく拡大することになる。つまり都市部と農村部の相互連携である。
EVと農業が、相乗効果で可能性を広げるものとして期待したい。
和田憲一郎(わだ けんいちろう)
1989年に三菱自動車に入社後、主に内装設計を担当。2005年に新世代電気自動車の開発担当者に任命され「i-MiEV」の開発に着手。2007年の開発プロジェクトの正式発足と同時に、MiEV商品開発プロジェクトのプロジェクトマネージャーに就任し、2009年に開発本部 MiEV技術部 担当部長、2010年にEVビジネス本部 上級エキスパートとなる。その後も三菱自動車のEVビジネスをけん引。電気自動車やプラグインハイブリッド車の普及をさらに進めるべく、2013年3月に同社を退社して、同年4月に車両の電動化に特化したエレクトリフィケーション コンサルティングを設立した。
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