農業用充電ステーションは、普段から人が多く集まるような場所に設置されているわけではない。しかし、2月3日の開所式には、テレビ局や新聞などの報道陣を含めて関係者が約100人集まった。式の冒頭では、実証試験を行う三菱自動車から、EVビジネス本部長を務める橋本徹氏が出席し、次のように述べた。
「本実証試験は、農林水産省、復興庁が、東日本大震災被災地の農林水産業の復興を目的に展開している『食料生産地域再生のための先端技術展開事業』の1つで、EVや太陽光発電などの先端技術を駆使して、東北の復興と地域の農業の進化に役立てていただくための取り組みとなっている。試験にご協力いただいている農家の寒風澤さまには、当社EVの軽トラ(ミニキャブ・ミーブ トラック)とバン(「ミニキャブ・ミーブ」)を使っていただいており、本日、農業用充電ステーションが本格稼働になった。自宅から田畑への行き来や農作物の運搬など、さまざまな場面で電気自動車を使っていいだき、燃費節約による経済効果やCO2の削減効果を実証していきたい。電源のない田畑でも、電動農具を用いた農作業ができるようになるなど、EVの使い勝手に関わる貴重なご意見もいただきたい」(橋本氏)。
また、農林水産省の農林水産技術会議事務局で研究推進課長を務める塩谷和正氏からは、以下のようなコメントがあった。
「被災地にお住まいの方々が苦しんでおられる。われわれがどういうお手伝いができるのか、産学官の知見を集め、被災地の復興に役立てたい。そのために2つのことを念頭に置いている。1つは、日本の英知を集めること。もう1つは、一定以上の規模で実行することだ。従来型ではなく、今までなかったことを実行し広めていきたい。このような実証試験を通して、日本の農業が先端的なレベルに達することを期待している」(塩谷氏)。
今回本格稼働を始めた農業用充電ステーションは、以下のような仕様になっている。太陽光発電システムの出力は、一般住宅向けが通常4k〜5kWであるのに対して、4〜5倍となる20kW。新開発した農業用充電ステーションの蓄電部の充電容量は32kWhと大きい。ミニキャブ・ミーブ トラック3台分に相当する。
また、直流電力を交流電力に変換するパワーコンディショナー(PCS)も備えている。蓄電部の電力を隣接したチャデモ方式の急速充電器(出力30kW)に送れば、EVへの急速充電が可能になる。さらに各EVは、車両から外部に交流電力を給電できる装置「MiEV power BOX」を備えているので、農機具や農作業に電力を供給できる。
ニチコンは、農業用充電ステーションの開発に当たり、他地域におけるエネルギーマネジメントの経験や家庭用蓄電池で培ったノウハウを活用しており、次のような技術的特徴があるようだ。
太陽光発電システム、蓄電部、急速充電器について、DC-DC変換、DC-AC変換、さらには蓄電を最適に統合制御できる。
再生可能なエネルギーだけで自立運転が可能となりエネルギーの地産地消を実現。
停電時の自立運転と復旧後の通常運転への自動切り替えが可能となり、安全・安心につながる。
実証試験に用いるEVは、現在5台(農家で2台、農事法人組合で3台)である。テレマティクス装置を搭載しているので、車両情報を収集してデータセンターに自動送信することもできる。
実際に、実証試験でEVを活用している近隣農家の寒風澤敦司氏にお話を伺ったところ、「ほぼ毎日、軽トラEV(ミニキャブ・ミーブ トラック)とバンタイプ(ミニキャブ・ミーブ)を使用している。主に、きゅうりを栽培しているハウスへの移動やきゅうりの運搬に用いている。EVを初めて使うので最初は戸惑いがあったが、最近は慣れてきた。静かでとても使いやすいと感じている。急速充電器も隣に設置されているので重宝している」とのこと。
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