「スマートセル」。聞きなれない言葉かもしれないが、「横浜スマートコミュニティ」に建設された研究・実験ハウスの名称だ。現在、スマートセルを使って進められている実証試験の手法は、従来のスマートハウスとはやや趣が異なる。では、一体何が異なるのか、果たして将来に向けた実証試験の進め方としてお手本となるのか。関係者に取材しその実像に迫った。
系統からの電力、太陽光発電、さらには蓄電地を電源として、家庭用機器や電気自動車(EV)と接続するスマートハウスの実証試験は、複数の地域で実施されている。横浜市西区の「横浜スマートコミュニティ」に建設された研究・実験ハウス「スマートセル」も、一見、他の実証実験と大きな違いがあるようには感じられない。しかし、実証試験の進め方はやや異なるようだ。
では、スマートセルは何を目指しているのだろうか。具体的にどのような方法で実証試験を進めているのか、将来のモデルやお手本になり得るのか……。そこで、横浜スマートコミュニティの関係者にヒアリングを行った。
まず、横浜スマートコミュニティの代表であり、dSPACE Japanの代表取締役社長である有馬仁志氏にスマートセル設立の趣旨についてお話を伺った。
和田憲一郎氏(以下、和田氏) スマートセル全体の計画と、今回のEV連携に関する接続実証試験の位置付けについて聞かせてほしい。
有馬氏 スマートセルおよび今回の実証試験では、現在ある機器(太陽光発電、蓄電池、家庭用機器、EVなど)を「どうつなげるか」ではなく、「エネルギーシステムの面で、将来どのような世界が望まれるのか、未来はこうなるのではないか」という観点からの考え方が基本になっている。
スマートセルはその考え方を具現化したものであり、電力系統と高いレベルで協調することを目的としている。そのためには、高い安全性と信頼性が必要だ。そこで、機器間の接続に関してその“つなぎ方”を変えている。
従来と大きく異なるのは、機器間を接続する制御システム開発の手法だ。これまでは紙ベースで仕様書を作成し、それを基に制御プログラムを開発/実装していた。しかしスマートセルでは、接続する機器や制御システムも、全て数式を使った「モデル」を基に構築されている。モデルを用いたコンピュータ上でのシミュレーションにより動作精度を高め、実装に結び付けようという試みである。
最近の電気自動車や航空機の開発には「モデルベース開発」が活用されるようになっている。このモデルベース開発を、初めてスマートハウス/スマートコミュニティーの製品開発に投入したことに価値がある。
和田氏 もう少し分かりやすく説明してもらえますか。
有馬氏 一般的なスマートハウスでは、系統電源、太陽光発電システム、蓄電池、家庭用機器、EVなど、さまざまな機器が接続されているが、その接続のされ方が異なる。通常、これらを連携させるには、個別の機器間での連携ができるかどうかを確認しながら開発を進めることになる。
スマートセルも、見掛け上さまざまな機器が接続されている点では、一般的なスマートハウスと同じだ。しかし、スマートセルにつながる全ての機器をモデルに置き換えて、シミュレーションで最適な接続や連携のさせ方をあらかじめ検討しているので、開発を行う上で発生するヒューマンエラーの排除や、開発スピードの向上、さらには試験/検証の容易化を実現できた。
例えば、ある旅館が規模を拡張する際に、別館、新館といったように、後付けで建造物を継ぎ足して行くのが、現在の一般的なスマートハウスのやり方となる。これに対して、大型のホテルを、一からコンピュータで設計し、ありとあらゆることをシミュレーションで評価・検証した後に、実際の建築物として具現化しようというのがスマートセルだ。
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