次に、スマートセルに用いられているエネルギーシステム機器を開発した村田製作所から、同社技術・事業開発本部デバイス開発センターのプロジェクトリーダーを務める藤田真氏と、営業本部営業企画部担当課長の初代幸治氏に、開発の経緯について聞いた。
和田氏 スマートセルとEVの接続実証試験における村田製作所の役割について教えてほしい。
藤田氏 当社では「エネルギーシステム」と呼ぶ実機を開発している。スマートセルの“エネルギーを創る、蓄える、賢く使う”の制御を担う、住宅全体のエネルギーマネジメントを行うためのものだ。
エネルギーシステムにより、停電時の自立運転動作や、ピークカット/ピークシフトのための系統電力補完、さらには太陽光発電の発電量や蓄電池の残量、スマートセル内の使用電力を常時把握して最適に振り分けることなどが可能になる。
電力源や電力を消費する機器の数が増えると、それぞれの変動に対応するのは容易ではない。例えば、ドライヤーを使用すると急激に消費電力が増えるし、曇り空になると太陽光発電の発電量が減少してしまう。しかし、今回のエネルギーシステムは、これらの変動に極めてフレキシブルに対応できる。ある意味、さまざまな電力源を合成して1つのものとして捉え、そこから各機器に最適な電力を差配していると言ってもいい。
和田氏 2013年春にスマートセルを開所した際と、現在では、エネルギーシステムにどのような変化があったのか。
藤田氏 現在は第2世代のシステムになっている。主に、小型・軽量化を図った。重量は、第1世代が28kgだったのに対して、10kg減の18kgまで軽量化している。体積も、従来比で3分の1となっており、大幅な小型化に成功した。
なお、開所の時点ではEVに接続していなかったが、8カ月間の運転確認ができたこともあり、現在では大きな電力源かつ負荷となるEVと接続実証試験も行っている。
和田氏 今回モデルベース開発を採用することで、どのようなメリットが得られたか。
藤田氏 1台のエネルギーシステムによって、スマートセルの電力源を1つに合成できるようになった。スマートセルの電力消費量をある値に設定した場合、どの電力源からどの程度の電力を受け入れて、機器に対してどのように給電すれば、簡単にその設定値を上回らないようにすることができる。ピークカットによる電力平準化への寄与も容易に実現できる。
また、当初設定した電力消費量からさらに低減したい場合には、デジタルで任意の比率に可変させることも可能だ。従来のスマートハウスでは、あらかじめ決まった電力消費モードから選択することしかできなかったが、モデルベース開発によってフレキシブル性は一段と増している。
さらに、系統連携保護機能の複雑化や、太陽光発電・蓄電池との接続の複雑化、複数のコンバータとの協調動作といったことを実現したシステムを、高い信頼性を持たせながら開発できることも大きい。機器を最後まで作ってから直すのではなく、早い段階から数式化されたモデルを使って、設計/コーディング/結合テストなどを行えるので、実機を作って動作に不具合が発生したら修正するといった手間も発生しにくい。
和田氏 今回のような実証試験を積み重ねた上で、村田製作所としてはどのような出口戦略を考えているのか。このエネルギーシステムを販売する予定はあるのか。
初代氏 当社としては、このエネルギーシステムを、エンドユーザーに商品を届けるメーカーに基本ユニットを供給したい。ビジネスの形態としては、いわゆるB2B2Cになるだろう。小型・軽量化を実現したことにより、今後はさまざまな商品のプラットフォームに活用していただけるのではないかと考えている。
和田氏 今後の課題は。
初代氏 SVAを通して、安全性や信頼性に対するモデルを作っていきたい。またシステム単体では、インバータなどの効率向上が挙げられるだろ。
和田氏 最後に、スマートセルの将来的な位置付けは。
初代氏 最先端のものを実装できるスマートセルは、ある意味「ショールーム」的な役割を担っている。今後も開発した商品を持ち込んで実装し、実際に動かして見せることで、当社のみならず、スマートセルがある横浜に拠点を置く企業を含めて、さまざまなビジネスマッチングができればと考えている。
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