最後に、スマートシティの実践都市として日本で先頭を走る横浜市から、環境未来都市推進担当理事である信時正人氏に、横浜市の現状や将来動向について聞いた。
和田氏 環境未来都市を目指す横浜市の取り組みについて聞かせてほしい。
信時氏 横浜市は、2011年12月に国からさまざまな社会的課題を解決する成功事例の創出・普及展開を目指す「環境未来都市」に選定された。また、「京浜臨海部ライフイノベーション国際戦略総合特区」の選定、さらには「特定都市再生緊急整備地域」の指定も受けている。これら3つの制度が適用される地域は全国で横浜市の「みなとみらい地区」だけだ。このようなことから、3つの地域で展開を図る横浜スマートシティプロジェクト(YSCP)をはじめ多くのプロジェクトに取り組んできた。
和田氏 最近の取り組み事例にはどのようなものがあるか。
信時氏 われわれはこれまで、中心市街地で二酸化炭素排出量ゼロの交通システム導入を目指して、日産自動車とYMPZ(ヨコハマモビリティープロジェクトゼロ)を推進してきた。この10月11日からは、超小型EVをシェアリングする社会システムの実証実験である「チョイモビ ヨコハマ」を開始した。日産自動車の超小型EVを活用して、みなとみらい地区を中心としたエリアでカーシェアリングを行うものである。
予約の際に借りる場所と返す場所を予約するシステムで、当初は総計30台でスタートした。近い将来に100台まで増やす計画である。また、駐車スペースは70カ所(140台分)を確保しているので、訪れたい場所の付近に無理なく駐車できるのではないかと考えている。入会金・年会費は無料で、利用料金は1分ごとに20円。現在、1万人の利用登録を目指して募集活動を行っている。
和田氏 V2H(Vehicle to Home)の実証実験については。
信時氏 横浜駅の近くに「観環居」という場所があり、自動車メーカーや住宅メーカーなどがV2Hの実証試験を行っている。ここでは、家の中に入る形でEVを駐車しています。まだアイデア段階ではあるが、建物・住宅とクルマ(EV)の新しい関係性を考え、双方のデザインをコラボレーションして新しいライフスタイルや価値観を創造していきたい。
将来的には、現在話題となっている自動運転についても、国の特区政策などを利用して、地域を限定してトライしてみたい。みなとみらい地区は、有効活用できる土地が全体面積の40%も残っているので、今後の新たな街づくり街づくりに期待が持てる。エネルギー関連など新しいインフラを最新のITが支え、その上で新たなライフスタイルを実現できるようにしていきたいと思っている。
今回は、次世代自動車の普及に伴って、都市計画や街づくりにどのような影響がもたらされるかについて探った。3人の有識者とのインタビューで浮かび上がってきたのは、想像以上に大きく変動しそうな姿であった。
東京オリンピック・パラリンピックが開催される2020年までというショートタイムでは難しいにしても、20年単位で考えれば、自動運転車やEVといった次世代自動車の普及が進展すると、次のような社会が到来するのではないかという思いを強くした。
V2X(V2H、V2Gなど、Xはいろいろな展開が可能)は現在も広まりつつあるが、クルマにはますますエネルギーを蓄える蓄電池デバイスとしての活用が求められる。それに伴って、建築物も蓄電池デバイスを収納できるような構造に変化していく。
現在は、衝突事故が避けられないことを前提に、日米欧にてクルマの衝突安全性能が定まっている。これらの法規を満足させるため、車体設計時には衝撃吸収ゾーンを設ける必要がある。将来的にクルマがぶつからなくなれば、これらの要件が緩和され、クルマのデザインは大きく自由度が増す。
大都市への人口集中が進んでおり、カーシェアなどが普及するにつれ、必ずしも一家に1台のクルマは必要ではなくなる。横浜市でのEVカーシェアリング、フランス・パリのオートリブなどが成功し始めれば、ますますその傾向が促進される。
自動運転車によって、車両間の距離や、クルマと人の間の距離などが完全にコントロールされた状態が可能になれば、都市空間や街の中でも人とクルマの距離が近くなり、分断せずに共存できる社会が見えてくる。例えば、小学校が近いエリアでは、自動的に走行速度が時速20km以下となるような制御が可能となる。
人口が減少し、結果としてクルマも減ってくると、今までと同じ密度でクルマが走るための道路は不要になってくる。その時、一部の道路を地域住民のクルマが乗り入れる程度に利用を制限し、家が道路側に開かれて、地域の人々がコミュニティーを形成しやすいような街が求められるだろう。
1908年にT型フォードが出現して100年余り。次世代自動車は今後20年以内に、さらなる電動化とITを活用した自動運転化などによって進展する。それに伴い、都市計画や街づくりも大きく変貌していくのではないだろうか。現在の状況は、その予兆が見えつつある段階だと思われる。
ますます密接になる人、都市、クルマの関係。これからも目が離せない。
和田憲一郎(わだ けんいちろう)
1989年に三菱自動車に入社後、主に内装設計を担当。2005年に新世代電気自動車の開発担当者に任命され「i-MiEV」の開発に着手。2007年の開発プロジェクトの正式発足と同時に、MiEV商品開発プロジェクトのプロジェクトマネージャーに就任し、2009年に開発本部 MiEV技術部 担当部長、2010年にEVビジネス本部 上級エキスパートとなる。その後も三菱自動車のEVビジネスをけん引。電気自動車やプラグインハイブリッド車の普及をさらに進めるべく、2013年3月に同社を退社して、同年4月に車両の電動化に特化したエレクトリフィケーション コンサルティングを設立した。
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