次に、SUEP.の代表取締役であり、数々の公共施設やコミュニティー施設の設計を手掛けた末光弘和氏に話を聞いた。末光氏は、自然や人に対しバランスを取りながら、より開かれた建築を目指す新進気鋭の建築家でもある。
和田氏 次世代自動車が普及すると、都市計画にどのような影響を与えると考えているか。
末光氏 クルマのエネルギー源がガソリンから電力に変わると、これまでは威圧感を感じてクルマを脅威の対象だと思っていた人々が、家電に近い身近なものと捉えるようになる。さらに排気ガスのことも無視できない。従来、家の中にクルマを入れることはできなかったが、今後はクルマを入れられるようになる。これは、建築で言うと「境界がなくなる」ことを意味する。
和田氏 「境界がなくなる」と、どういうことが起こるのか。
末光氏 家の外部と内部の境界があいまいになり、われわれが「半屋外」と呼ぶ空間が生まれる。クルマが家の中に入るとなれば、乗り降りが便利なだけでなく、室内を車庫兼ギャラリーのようなスペースにも使用できるし、家の一部を外部に開放することも可能になる。従来、塀や壁で囲まれて閉鎖的だった家が、クルマのようにもともと外にあって、人から見られるように作られたものを内部に収めることで、新しい在り方を誘発するのではないか。
和田氏 そういった考え方は街づくりにも影響を及ぼすか。
末光氏 近代以降、道路は自動車を中心に作られてきた。人は、道路の端を危険がないように注意しながら歩かざるを得なかった。しかし、少子高齢化で人やクルマが減ってくると、今までのようにたくさんの道路は必要なくなってくる。このような中で、一部の道路でアスファルトを剥がし、公園の歩道のように石と草木を組み合わせた「緑道」とすることで、人々が歩きたくなる道ができる。
また、公園やこのような緑道に面している家であれば、従来の塀で囲われた閉鎖的な家から、オープンテラスや土間スペースなどにより道に開かれた家に変わっていくのではないか。クローズしている文化を、人とシェアする文化に変えていくことでオープンになり、自然発生的に人が集まって街が活性化してくる。
和田氏 最近話題の自動運転についてどう考えているか。
末光氏 ドライバーの誤操作を防止し、交通事故を減らす目的は分かるが、何でも自動化するのは人にとって危ない面もあるのではないか。バリアフリーも行き過ぎると人がダメになる。便利であればあるほど良いと考え、人や自然物を排除して、人工的に完全にコントロールしようとするのはどちらかと言えば20世紀的な考え方であり、その限界は原発の事故が痛々しいほどに見せつけてくれたのではないか。
これからは、もっと人や自然を巻き込みながら、人の体を活性化するような技術を育てていかなければならないように思う。交通計画にしても、画一的な計画でなく、場所に応じて変化するような、より有機的な計画になるべきであろう。高齢者が多い地域では、容易に移動可能な地域内交通を、ビジネスエリアでは従来のような都市間交通を視野に入れた交通手段を用意するといった考え方もあるのではないか。
和田氏 今後の都市計画を実行する上での課題は。
末光氏 東北地方における震災復興計画でもそうなのだが、多くの方からさまざまなアイデアが提案されているものの、全体を計画しコントロールして実行していく司令塔の不在が最も大きな課題だろう。特に法整備まで絡んでくると、日本の行政対応はどうしても縦割りとなってしまい、計画がなかなか進まない。横串を通しながら、新しい街づくりを進めなければならない。今後も新たな街づくりに貢献できるように、情報発信を続けていきたい。
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