続いての基調講演は、車載情報機器向けSoC(System on Chip)「R-Car」を提供するルネサス エレクトロニクスでシニアマネージャを務める吉田正康氏の「Platform for MY16 Car Infotainment and Beyond」である。2016年に向け、車載情報機器のプラットフォームがどのように進化するのかをまとめたセッションだ。
吉田氏は、2016〜18年にかけて、車載情報機器向けに共通のプラットフォームが完成するのでないかと期待している。プラットフォームを共通化することにより、トータルのBOM(部品表)がコンパクトになるため、システムのユニット、デザインそのものを進化させることができる。
そのためのキーテクノロジーがイーサネットだ。現在、車載情報機器には複数のネットワーク規格が利用されている。これを「イーサネットAVB」(IEEE802.1 Audio/Video Bridging)で置き換えるというのである。
イーサネットは“枯れた”技術だ。スピードが速く、かつコントローラが豊富にあり、安価に調達が可能になっている。PCの世界では一般化したイーサネットが、自動車の中の基幹ネットワークになる。オープンな技術であり、無線化もしやすく、全体のコストも下げられることが特徴だ。イーサネットAVBはJasPar、IEEEをはじめ多くの標準化団体が検討を進めており、ルネサスもこれらの団体に積極的に参加している。
とはいえ、車載情報機器でイーサネットAVBを利用するにはまだ課題が存在する。イーサネットのデータ通信は基本的にベストエフォートだ。イーサネットAVBでは音楽、映像などの情報を伝送路に乗せるため、安定的に使うためには優先度制御(QoS)を行う必要がある。そこで、下記の4つの標準化仕様が用意されている。
標準 | 内容 |
---|---|
IEEE802.1 AS | 時刻/タイミングの同期 |
IEEE802.1 Qat | ストリーム帯域予約プロトコル |
IEEE802.1 Qav | ストリーム中継/キューイング |
IEEE1722 | イーサネットAVB転送プロトコル |
イーサネットAVBの4つの標準化仕様 |
実際には、これらの標準を使うだけではなく、ハードウェアとソフトウェアの組み合わせに工夫が重要だ。ルネサスは、「複数の車載カメラのデータ統合」、「映像のリップシンク」、「DVD再生/コンシューマデバイス利用時」などのユースケースを用意し、開発目標の要求仕様をクリアできるかをチェックしているという。
ルネサスは、イーサネットAVBを活用した車載情報機器を制御するためのSoCとして「R-Car2シリーズ」を開発した。
次世代の車載情報機器では、例えば音声認識をするためにドライバーの言葉を集音し、それをクラウド上で処理し、的確な反応を返すなどの仕組みが考えられる。また、ドライバーの運転を支援するために、車載カメラの映像から標識などを検出し、安全のためにフィードバックを行うということも求められる。これらの処理を行うには、高速、かつ高い反応性が必要だ。もちろん、省電力性能も求められる。
ルネサスは9つのCPUコアを1ダイに集約した「R-Car H2」を用意し、第1世代の「R-Car H1」と比べて50%の応答性向上を目指すという。イメージプロセッサの内蔵により、リアルタイムの標識認識やサラウンドビューの映像処理が可能だという。処理が高速化すると問題となるのは消費電力だが、これについてもARMと協業し、高パフォーマンスのコアを省電力コアを組み合わせることで効率を高める「big.LITTLE」技術を導入して対処した。
ルネサスはこれらハードウェアだけでなく、車載情報機器のエコシステムを構築するために、さまざまな活動を行っている。また、Linuxのサポートについては、YoctoプロジェクトやAGL、GENIVIアライアンスに参加しているという。吉田氏は最後に、半導体ベンダーとしての立ち位置から、「車載情報機器の市場は変動期にあり、当社としてもパートナーとの協業が重要になっていると考えている。その一環として、Linuxコミュニティーとさらに密接な関係を築き、プラットフォームの発展に寄与したい」と述べた。
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