エンジン点火に必要な電圧は数万V! イグニッションコイルの役割いまさら聞けない 電装部品入門(7)(3/3 ページ)

» 2013年05月23日 11時00分 公開
前のページへ 1|2|3       

相互誘導作用で1万〜3万Vに昇圧

 もちろん300V程度では火花放電を行えませんので、さらにこの300Vを使って目的の1万〜3万Vにまで昇圧する必要があります。それにはコイルの相互誘導作用という性質を利用します。

 相互誘導作用を利用する場合、鉄心には一次コイルと二次コイルを巻き付けておきます。この一次コイルとは、先ほど自己誘導作用の説明で紹介したコイルだと考えてください。


相互誘導作用の説明図(1) 相互誘導作用の説明図(1)。鉄心に一次コイルと二次コイルを巻き付けておく

 一次コイルに電流を流すと、二次コイルを巻き込んで磁界が発生しますが、電圧は発生しません。

 そして、一次コイルに電流を流した状態からスイッチをオフにすると、自己誘導作用の磁界を保とうとする働きによって一次コイルには約300Vの電圧が生じ(一次電圧)、同様に二次コイルにも高電圧(二次電圧)が誘起されることになります。

相互誘導作用の説明図(2) 相互誘導作用の説明図(2)。一度スイッチをオンにしてから再度オフにすると、自己誘導作用によって一次コイルに約300Vの電圧が生じ、二次コイルにも高電圧が誘起される

 これを相互誘導作用といい、二次コイルに生じる起電力は以下のような式で算出されます。

二次コイルの起電力=一次コイルの起電力×二次コイルの巻き数÷一次コイルの巻き数

 二次コイル側の巻き数をあらかじめ増やしておけば、相互誘導作用によって極めて大きな電圧を生じさせることができます。

 実際のイグニッションコイルでは、一次コイルの巻き数に対して、二次コイルの巻き数は100倍程度になっているので、目的の1万〜3万Vまで昇圧できるわけです。

 双方のコイルの巻き数を増やせば増やすほど二次電圧を高めることができるとはいうものの、巻き数を増やすとイグニッションコイルは大型化してしまいます。しかし、一般的に自動車部品は、できるだけ軽量かつコンパクトであることが求められます。

 高い電圧への昇圧と軽量化を両立するに、コイルの巻き数を減らしながら、より高い電圧に昇圧できる仕組みが必要です。そこで、磁束が空気中を通るのではなく、磁束通路になる領域に鉄心を配置するような構造をとれば、コイルの巻き数を減らすことができます。磁束を内部に閉じ込める閉磁路タイプにすれば、これを実現できます。

閉磁路タイプのコイル構造 閉磁路タイプのコイル構造


 次回は、ディストリビューターについて詳しく解説します。お楽しみに!

プロフィール

カーライフプロデューサー テル

1981年生まれ。自動車整備専門学校を卒業後、二輪サービスマニュアル作成、完成検査員(テストドライバー)、スポーツカーのスペシャル整備チーフメカニックを経て、現在は難問修理や車両検証、技術伝承などに特化した業務に就いている。学生時代から鈴鹿8時間耐久ロードレースのメカニックとして参戦もしている。Webサイト「カーライフサポートネット」では、自動車の維持費削減を目標にしたメールマガジン「マイカーを持つ人におくる、☆脱しろうと☆ のススメ」との連動により、自動車の基礎知識やメンテナンス方法などを幅広く公開している。



前のページへ 1|2|3       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.