アイドルストップによる瞬断を防ぐ、車載DC-DCコンバータICの役割とは車載半導体

自動車の燃費向上を目的に需要が拡大しているアイドルストップシステムは、鉛電池の残量低下によるECUの“瞬断”が起らないように、注意を払って開発を行う必要がある。もし、ECUに搭載するDC-DCコンバータICが瞬断を起こさないような機能を備えていれば、アイドルストップシステムの使用頻度をさらに高めたり、鉛電池の容量を低減できたりするかもしれない。

» 2012年06月08日 20時26分 公開
[朴尚洙,@IT MONOist]

 赤信号などで停車する際にエンジンを停止する、アイドルストップシステムの需要が拡大している。ハイブリッド車のように大型のモーターや大容量の電池などを追加することなく、CO2の排出量と燃料消費量を削減できるからだ。

 国内市場でも、2009年6月発売の「アクセラ」(マツダ)を皮切りに、2010年7月発売の「マーチ」(日産自動車)、2010年8月発売の「ワゴンR」(スズキ)、2010年12月発売の「ヴィッツ」(トヨタ自動車)と「ムーヴ」(ダイハツ工業)、2011年10月発売の「RVR」と「ギャラン フォルティス」(いずれも三菱自動車)など、続々とアイドルストップシステムの搭載車が投入されている。

アイドルストップシステムの動作イメージ アイドルストップシステムの動作イメージ(クリックで拡大) 出典:マツダ

 これらの車両に採用された新型のアイドルストップシステムは、エンジン再始動時間の短縮や、スタータモーターの耐久性向上、鉛電池の大容量化などに重点を置いて開発されている。特に、エンジン停止時には、ステアリングやエアバッグ、エアコン、カーナビゲーションシステム、メーターといった車載システムにとって、鉛電池が唯一の電力供給源となる。その大容量化は必須と言えるだろう。

 しかし、どれだけ鉛電池を大容量化したとしても、アイドルストップシステムによるエンジン停止時までに電池のエネルギー残量が低下していることもある。この状態から、エンジン再始動時にスタータモーターを動かそうとすると、スタータモーター以外の車載システムに対して供給する電圧が低下してしまうことがある。車載システムへの出力電圧が低下するということは、ECU(電子制御ユニット)に搭載されているDC-DCコンバータICへの入力電圧が低下することを意味する。

 DC-DCコンバータICは、同じくECUに搭載されているプロセッサなどの各種ICに対して、鉛電池から入力される電圧をこれらのICの動作に最適な電圧に変換して出力する役割を担う。通常、鉛電池の出力電圧は約12Vで、DC-DCコンバータICがそれを5Vや3.3Vといった電圧に変換して出力するわけだ。しかし、先述のように入力電圧が急激に低下すると、一般的なDC-DCコンバータICは動作が不安定になって出力電圧が一気に落ち込んでしまうのだ。そうなると、ECUに電力が供給されないので、車載システムは動作を停止する。

 もちろん、エンジンが再始動してオルタネーターが動作すれば、DC-DCコンバータICへの入力電圧は通常の値に戻る。しかし、DC-DCコンバータICが再度適正な電圧を出力するまでには一定の時間が必要になる。製品によっては、秒単位の時間が必要な場合もある。そのためにECUの動作が一瞬停止してしまう現象が、“瞬断”である。

 もちろん、市販車に搭載されているアイドルストップシステムは、瞬断が起らないように、鉛電池の残量が低下している場合にはエンジンを停止しないなどの対応策が取られている。しかし、瞬断を起こさない、もしくは瞬断を起こしにくいDC-DCコンバータICを採用すれば、アイドルストップシステムの使用頻度をさらに高めたり、鉛電池の容量を低減できたりするかもしれない。

 この瞬断は、冬季など気温が低いとき、鉛電池の電圧が一時的に低下する場合にも発生する。この現象は、寒い時にスタータモーターが動作しなくなることから、「コールドクランク」と呼ばれている。

同期整流方式による高効率と低暗電流を実現

「LT8610」の評価ボード 「LT8610」の評価ボード。中央にある「8610」と刻印されているICがLT8610である。(クリックで拡大) 出典:リニアテクノロジー

 リニアテクノロジーは2012年5月、アイドルストップシステムを搭載する車両や、コールドクランク対応に最適なDC-DCコンバータICの新製品「LT8610」と「LT8611」を発表した。1000個購入時の単価は、LT8610が3.55米ドルから、LT8611が3.80米ドルから。

 LT8610とLT8611は、入力電圧が急激に低下する場合でも、ECUが瞬断を起こさないような出力電圧を維持できる。「入力電圧範囲は3.4〜42Vで、下限の3.4V以上であれば、ECUが瞬断を起こさないような電圧を出力し続けられる」(同社)という。

 同期整流方式の採用によって高い変換効率を実現したことも特徴である。12V入力、5V/1A出力の場合で96%という変換効率を達成した。チョッパ方式などの非同期整流方式の場合、変換効率は最大でも90%にとどまる。スイッチング周波数は200k〜2.2MHz。AMラジオの受信に影響を与えないように、最小スイッチオン時間を50nsに短縮した。

 この他、無負荷時の消費電流(暗電流)も2.5μAと小さい。一般的なDC-DCコンバータICの場合、暗電流は数十μAで、100μAを超える場合もあるという。

 パッケージは、LT8610が外形寸法5×4mmの16端子MSOPで、LT8611が外形寸法3×5mmの24端子QFN。両製品とも、−40〜125℃と−40〜150℃のグレードがあり、それぞれの接合部温度での動作がテストにより保証されている。

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