MONOist SKYACTIVエンジンは、エンジンの性能向上を図る際に欧州メーカーなどが取り入れている「ダウンサイジング」とは異なる手法で開発を進めたと聞いています。その違いについて教えてください。
仁井内氏 自動車の動力源を性能向上させるための開発手法は3つあります。まず1つ目は、ハイブリッド車や電気自動車のように、モーターや電池を利用する電動化です。そして、2つ目の手法が、エンジンのダウンサイジングです。ダウンサイジングでは、エンジンの気筒数を減らすことで燃費を改善します。しかし、気筒数を減らした分だけトルクが減少してしまいます。そこで、トルクを増やすために過給機(ターボチャージャ)を追加します。これら2つの手法は、電動システムや気筒数の削減など見た目にも分かりやすく、改良の結果をアピールしやすいのです。
SKYACTIVエンジンは、エンジンの燃焼制御を抜本的に変えるという、3つ目の手法を採用しました。燃焼制御を抜本的に変更するためには、エンジンの4大損失(排気損失、冷却損失、機械抵抗損失、ポンプ損失)をいかにして減らすかが重要です。残念ながら、これらの損失の低減は見た目で分かりやすいとは言えませんが。しかし、デミオなどのSKYACTIV-Gや、CX-5のSKYACTIV-Dは、この手法で開発することによって大きな成果を得ることできました。
MONOist SKYACTIVエンジンを開発するために行った、燃焼制御の抜本的な変更とはどのようなものですか。
仁井内氏 まず理解しておいてもらいたいのですが、われわれは燃焼制御の抜本的変更によって、“理想の燃焼”の達成を目指しています。この理想の燃焼を達成するまでには3つのステップがあると考えていて、SKYACTIV-GとSKYACTIV-Dは、圧縮比の最適化という第1のステップをクリアした成果となります。SKYACTIV-Gでは、圧縮比を従来の10〜12から14まで高めることにより、燃費と低中速走行時のトルクを大幅に向上することができました。一方、SKYACTIV-Dは、圧縮比を従来のディーゼルエンジンが16程度だったところを14まで下げました。これにより、燃料噴射タイミングの最適化を実現し、低圧縮比化によるエンジン部品の軽量化によって機械抵抗損失を大幅に低減しました。
MONOist それでは、SKYACTIVエンジンをさらに進化させる、第2、第3のステップをクリアするため方策について教えてください。
仁井内氏 第2のステップでは、SKYACTIVエンジンよりも、燃焼をさらに理想的な状態に近づけます。ガソリンエンジンであれば、新たな燃焼手法として、従来のガソリンエンジンとディーゼルエンジンの特徴を併せ持ったHCCI(Homogeneous Charge Compression Ignition:予混合圧縮自己着火)燃焼を導入します。これにより熱効率は、従来のガソリンエンジンの30%から50%まで高めることができます。ディーゼルエンジンについては、現在よりも理想的な燃料と空気の混合状態の実現を目指します。熱効率は、従来の40%から45〜46%まで向上できると考えています。
第3のステップでは、エンジンの4大損失のうち、冷却損失を削減します。現在、シリンダーブロックやシリンダーヘッドを冷却水で冷やすために冷却損失が発生しています。これらの部品を断熱化することによって冷却損失を減らし、その分得られる熱エネルギーを動力に変換するのです。これによって、ガソリンエンジンとディーゼルエンジンの熱効率を60%近くまで向上できるでしょう。
MONOist 国内の自動車メーカーは、ハイブリッド車や電気自動車など、電動システムを使った車両の開発に注力しています。その一方で、エンジンの性能向上については、欧州の自動車メーカーと比べると一歩遅れているイメージがあります。
仁井内氏 理想の燃焼に向けたエンジン開発は、マツダ1社だけで実現できるわけではありません。国内自動車メーカーにもエンジンの性能向上に積極的に取り組んでもらい、互いに切磋琢磨しながら理想の燃焼を達成したいと考えています。
後編では、CX-5に搭載されているクリーンディーゼルエンジン・SKYACTIV-Dの特徴や、開発裏話についてのインタビューをお送りする。
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