引退した人は働き続けている人よりも心疾患リスクが低い:医療技術ニュース
京都大学は、健康な人ほど就労継続をしやすいというバイアスを取り除いた上で、高齢者の就労継続と心疾患リスクの関連を調べた。その結果、引退した人は働き続けている人よりも、心疾患リスクや身体不活動リスクが低いことが明らかになった。
京都大学は2023年5月29日、高齢者の就労継続と心疾患リスクの関連を調べ、引退した人は働き続けている人よりも心疾患リスクが低いことを発表した。また、身体不活動のリスクも、引退した人の方が低かった。
今回の研究では、日本を含む35カ国の50〜70歳の10万6927人を約6.7年間追跡調査し、仕事の引退が心疾患とそのリスク要因に与える影響を調べた。調査に当たっては、健康な人ほど就労継続しやすいというバイアスを取り除くため、因果推論という手法を用いて検討した。個人の性別や遺伝子、各国の医療制度、社会状況の時系列トレンドなど、観察できない個人や国の属性の影響も考慮して分析した。
その結果、引退した人は働き続けている人よりも心疾患リスクが2.2ポイント低いことが明らかになった。中高強度の運動をする回数が週1回未満という身体不活動リスクも、引退した人の方が3.0ポイント低かった。
また、引退と強く関連するものの、心疾患リスクとは直接関連しないような変数を解析に用いた場合(操作変数法)と用いない場合では、心疾患リスクと引退の関連は正負が逆転した。
引退と各イベントリスクの関連。FEは操作変数法を用いていないモデル、FEIVは操作変数法を用いたモデル。操作変数は、引退と強く関連するものの心疾患リスクとは直接関連しないような変数を指す[クリックで拡大] 出所:京都大学
その他のリスク因子と引退の関係については、女性では、引退と喫煙率の低下に関連があることが示された。教育年数が高いグループでは、引退した人の方が脳卒中や肥満、身体不活動のリスクが低いことが示唆された。
引退前の働き方の違いによるリスク要因との関連も明らかとなった。デスクワーカーのグループでは、引退した人の方が心疾患や肥満、身体不活動のリスクが低かったが、肉体労働をしていた人のグループでは引退した人の方が肥満リスクが高かった。
これまでの研究の多くは、高齢者の就労継続が健康に良いことを示唆していた。しかし、心疾患リスクと就労継続の関連を調べた複数の研究において、一貫した結果は得られていない。この理由として、調査が実施された国の背景や統計手法の違いのほか、健康な人ほど就労を継続しやすいというバイアスが十分に考慮されていない可能性があった。
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