東京大学は、人工細胞中に細胞核に相当する区画構造を構築し、遺伝情報の転写とタンパク質合成を空間的に分離して再現することに成功した。生命システムの理解や、効率的なタンパク質合成などへの応用が期待される。
東京大学は2025年1月27日、人工細胞中に細胞核に相当する区画構造を構築し、遺伝情報の転写とタンパク質合成を空間的に分離して再現することに成功したと発表した。
研究グループは、天然変性タンパク質と2種類の合成ポリマーの液―液相分離を組み合わせることで、人工細胞核の区画化を再現した。天然変性タンパク質の液−液相分離によって形成する液滴を細胞核に相当する内側の区画に、デキストランとポリエチレングリコールによる液−液相分離を外側の細胞表面膜として利用した。人工細胞の外側は、ポリエチレングリコール相で囲われている。
また、転写反応に必要なDNAと転写酵素を内側の区画に集積させるために、特異的なペプチドタグを転写酵素とDNA結合タンパク質に付加している。
人工細胞核内で合成されたmRNAは外部の人工細胞質に拡散し、そこで翻訳因子により翻訳されてタンパク質が合成される。
なお、この人工細胞システムは細胞核の内外を隔てる膜がないため、RNAなどの分子が自由に出入りできるだけでなく、特定の分子をそれぞれの区画に濃縮できる。また、水溶液を単純に混合するだけで作成でき、システムの機能を生体分子の活性を維持しやすい環境で再現できる。
同研究成果は、生命システムの理解の他、タンパク質の効率的な生産方法として医薬品や産業用酵素への応用、新規薬剤スクリーニング系の開発などへの応用が期待される。
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