設計者CAEを活用した構造解析はじめの一歩:デジタルエンジニアの重要性と育成のコツ(5)(4/4 ページ)
現代のモノづくりにおいて、3D CADやCAE、CAM、3Dプリンタや3Dスキャナーといったデジタル技術の活用は欠かせない。だが、これらを単に使いこなしているだけではデジタル技術を活用した“真の価値”は発揮できない。必要なのは、デジタル技術を活用し、QCDの向上を図り、安全で魅力ある製品を創り出せる「デジタルエンジニア」の存在だ。連載第5回では「設計者CAEを活用した構造解析」について解説する。
設計業務でのCAE活用のポイント
解析で応力を正確に求めようとした場合、現実条件を多くの仮定条件に正確に置き換える必要が出てきます。実験値と比較し、材料物性や境界条件の妥当性を確認(Validation)したり、正しく計算されているかの検証(Verification)を行ったりなどのトライ&エラーが発生するため、多くの労力と時間がかかります。
最初のうちは、相対評価として形状や材料の複数案を比較検討するツールとしてCAEを利用するとよいでしょう。比較検討する場合には、メッシュサイズによって応力値が変わってくるため、メッシュサイズは変えずに行います。変位はメッシュサイズの影響が少ないため、変位で相対比較してみるのもよいでしょう。
ただし、例えば、変位の大きい平板部分に補強リブを追加すると、変位は小さくなっても断面の小さいリブの部分に高い応力が発生してしまいます。最適な設計をするためには、単に剛性を上げるだけでなく、応力集中を緩和するために力を分散させることも重要です。
また、製品全ての部品を組み合わせたアセンブリの解析は、摩擦や接触などの設定を現実条件と合わせ込むのが難しく、計算時間もかかります。そのため、まずは単品部品や一部の形状を取り出して解析を行い、短時間で結果を確認&評価するとよいでしょう。アセンブリの解析を行う場合、設計者CAEの多くは接する面に自動で「接着(ボンド)」を定義して節点の自由度を拘束(固定)できるため、全体の変形の傾向や程度に当たりを付ける使い方は有効的です。
設計者CAEは、解析専任者が使用するハイエンドなCAEソフトと比べると解析精度は劣りますが、操作性の良さと設計者が自分ですぐに解析を実行して解を求めることができるスピード感がメリットだといえます。そのため、設計の初期段階から利用して、設計の方向性を決めるのが望ましいです。CAEの活用によって、トラブルを未然に防ぎ、実験や試作の回数を減らすことができ、開発期間の短縮、コスト削減、品質向上につながります。試作が減らせることで産業廃棄物も減らせることから環境にも優しいといえるでしょう。
ただし、CAEは万能の魔法の箱ではありません。誤った入力をすれば、誤った答えが出力され、できないものはできないとエラーが出ます。また、解析結果を評価するのはコンピュータではありません。あくまでも解析を行い評価するのは“人”です。解析を正しく利用するには、CAEソフトを利用する知識の他に、材料力学をはじめとする工学知識、有限要素法などの知識が必要となります。非常にハードルの高い話に聞こえますが、少しずつでも使用していくことでノウハウが蓄積されていきます。長期的な目線でCAEを活用していきましょう。 (次回へ続く)
筆者プロフィール
小原照記(おばら てるき)
いわてデジタルエンジニア育成センターのセンター長、3次元設計能力検定協会の理事も務める。3D CADを中心とした講習会を小学生から大人まで幅広い世代の人に行い、3Dデータを活用できる人材を増やす活動をしている。また企業の困り事に対し、デジタルツールを使って支援している。人は宝、財産であると考え、時代に対応する、即戦力になれる人財、また、時代を創るプロフェッショナルな人財の育成を目指している。優秀な人財がいるところには、仕事が集まり、人が集まって、より魅力ある街になっていくと考えて地方でもできること、地方だからできることを考えて日々活動している。
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