連載「テルえもんの3Dモノづくり相談所」では、3Dモノづくりを実践する上で直面する“よくある課題”にフォーカスし、その解決策や必要な考え方などについて、筆者の経験や知見を基に詳しく解説する。第1回のテーマは「2D CADから3D CADへの移行」だ。
皆さん、こんにちは! “テルえもん”こと、小原照記(おばらてるき)と申します。普段は岩手県の「いわてデジタルエンジニア育成センター」という施設で3D CADを中核とした、3Dモノづくりの人材育成と“企業さんのお困りごと”を聞いて支援する仕事をしています。当センターでは、3D CADをはじめとしたさまざまな設備を保有しており、学生や企業の方たち向けに講習会を開催したり、3Dプリンタによる試作や3Dスキャナーを用いた検査およびリバースエンジニアリングなどの受託業務を行ったりしています。
本連載では、3Dモノづくりを実践する上で直面する“よくある課題”にフォーカスし、その解決策や必要な考え方などについて、筆者の経験や知見を基に詳しく解説していきます。皆さまに少しでも有益な情報を提供できるように頑張りますので、どうぞよろしくお願いします。
記念すべき第1回のテーマは「2D CADから3D CADへの移行」についてです。実際、どのように進めたらよいか? と悩まれている現場も少なくないでしょう。今回は、具体的な移行手順というよりも、その前提となる移行に対する考え方や心構えについてお話できればと思います。
現在使用している2D CADから3D CADへと移行したいと考えています。具体的に、どのようにして設計環境の移行を進めればよいのでしょうか?
今回のような相談は頻繁に筆者の下に寄せられてきます。設計現場にとって、2D CADから3D CADへの移行は簡単なことではありません。ソフトウェアの操作性が変わることはもちろんのこと、これまでの設計プロセスを変えたり、社内全体の業務の流れや仕組みを変えたりする必要があります。3D CADソフトウェアを導入すれば終わり、というわけにはいかないのです。
移行を検討される際、まず「どの3D CADを使おうか?」とソフトウェアの選定に意識が向くかと思いますが、そもそもなぜ、3D CADを導入したいのでしょうか。筆者はまず、相談相手から実際の業務の流れを聞いたり、普段2D CADで設計している部品や製品について確認したりしながら、「なぜ3D CADに移行したいのか?」という目的を深くヒアリングするようにしています。
正直申し上げて、「上から言われたから」「何となくはやりだから」では、3D CADへの移行はうまくいきません。なぜなら“実現したいゴール”がないからです。
2D CADから3D CADへ移行したい理由や目的については、各企業や設計現場によってさまざまです。例えば、「モノを作る前に干渉などを確認し、モノが出来上がってから見つかる不具合を未然に防ぎ、手直しにかかる時間とコストを減らしたい」といった理由はその代表格です。
2D CADを用いた2次元設計の世界では、どうしても干渉箇所が見つけづらく、モノを作ってから干渉が見つかり、設計変更や再加工などの修正が生じ、時間とコストがかかってしまう……ということがよく起こり得ます。
一般的に、どの3D CADでも干渉チェックはできますが、確認するためには、当然ながら「3Dモデル」が必要になります。初めて3D CADを使用する場合、モデリングのスキルを習得する必要がありますし、はじめのうちは特に作業時間もかかります。また、取り扱う部品や製品によっても手間や労力が変わってきますので、ご自身の業務に適した3D CADを選定する必要もあります。
ちなみに、3D CADソフトウェアの選定については、TechFactoryの連載「業務に適した3D CADをレーダーチャートで探る」をご覧ください。また、干渉チェック以外の3D CAD導入のメリットについては、MONOistの連載「“脱2次元”できない現場で効果的に3D CADを活用する方法」にまとまっています。
もし、社内で3D CAD移行の話が出始めているようでしたら、あらためて、その目的が明確なのか、目指すべきゴールがあるのかを確認してみてください。ここがはっきりとしていないようでは、3D CAD導入のスタートラインには立てません。
筆者は相談相手に対して、3D CAD導入のメリットだけを伝えるのではなく、同時にデメリットもしっかりとお伝えしています。メリットだけを並べる営業マンって何となく信用できませんよね……。3D CADの導入を検討する上でもデメリットを知ることはとても重要です。そんな営業マンに出会ったら、ぜひデメリットについても聞いてみてください。
ここでもあえてデメリットを挙げますが、まず第一に、操作が2D CADと比べて難しく、習得して使いこなせるまでに時間がかかる傾向にあります。また、いざ実務で活用し始めても、どうしても使い慣れている2D CADで設計していたときよりも、作業時間がかかってしまうことがよくあります。特に導入直後であれば、そこはある程度仕方のない点だと思いますが、「3D CAD導入=設計効率アップ」と短絡的に考えない方がよいかと思います。3D CADの本格活用に向けては、やはり人材育成が重要なポイントになってきます。この部分の時間やコストは、将来への投資だと思える覚悟が必要です。
多少、設計作業に時間がかかっても、設計品質が向上し手戻りも減って、全体的な時間とコストの削減が見込めるのであればよいのですが、一向にそうした効果が感じられないようであれば、あらためて活用、運用方法を見直すべきだと考えます。
例えば、干渉チェックが3D CAD導入の最初の目的であれば、干渉を確認したい部分だけを3D CADでモデル化してチェックするという運用も1つの手だといえます。もちろん、全ての部品、製品を3Dモデルとして設計することで得られるメリットはたくさんありますが、いきなり全てを3Dで設計するのではなく、必要な部分から3D化していく方が、最短距離で3D CAD導入のメリットが得られる場合もあります。このように、いろいろなアプローチが考えられるため、筆者は相談相手とのヒアリングを進める中で、最善な取り組み方法を組み立てて提案するように心掛けています。
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