これらの実験を踏まえ、宮堂氏は「AIに任せられる仕事」と「人間が担う必要のある仕事」を整理した。
AIが担えたものとしては、Pythonコーディング、CAEツールの実行、解析テクニックの選択、ある程度の結果評価、解析結果レポートの作成を挙げた。特に解析テクニックについては、教科書的な知識であればAIでも対応できると評価している。
一方、人間が担うべき仕事について、宮堂氏は次のように述べた。
「人間が行わなければならないのは、そもそもなぜこの解析を行うのか、解析の目的は何かを定めることである。また、境界条件をどのように設定するか、結果を直感的にレビューし、違和感を見抜くことも人間の仕事だ」(宮堂氏)
この他、解析対象となる形状の準備も、人間に残る仕事として挙げた。
AIエージェントの活用によって、CAEで生じる「つまずき」の内容も変わる。人間がCAEツールを操作する場合には、単位系や座標系の間違い、拘束/荷重条件の設定ミス、不適切なメッシュ、解析結果の読み間違い、ツール操作の難しさなどが代表的な問題となる。
一方、AIエージェントを使うと、この種の問題は比較的起きにくくなるものの、ソルバーを何度も実行する、CAEツールの起動に失敗する、AIが勝手に解析計画を変更する、強引なPythonコードを書く、古いコードを使うといった新たな問題が生じるという。
対策としては、あらかじめルールや手順を定めること、AI自身に結果をレビューさせること、必要なコードのリポジトリを参照させることなどを挙げている。
宮堂氏は、AI時代の新たなつまずきについて、「AIの問題というよりも、使う人間側の『環境設計』の問題である」との考えを示した。
宮堂氏は、AIがCAE業務の一部を担うようになれば、CAE技術者に求められるスキルの重要度も変化するとみる。
今後、重要度が下がると考えられるものとして挙げたのは、解析設定の詳細知識、ドキュメントの熟読や記憶、ソフトウェア操作の習熟、レポート作成、情報収集や検索などである。
一方、問題を設定する力、結果を評価する力、設計者とディスカッションする力、結果を人に説明する力、工学的センスや妥当性判断は、変わらず必要になるという。
さらに重要度が高まるものとして、AIエージェントの設計、「Git」(ソースコードのバージョン管理システム)や環境構築に関する知識、AIへの指示を言語化する力、AIのマネジメント、取りあえずやってみる姿勢などを挙げた。
「AI、特にAIエージェントの周辺は変化が非常に激しいため、今はうまくいかなくても、3カ月後にはうまくいく可能性がある。まず試してみて、駄目ならまた再挑戦するくらいの姿勢がよい」(宮堂氏)
これまでのCAE教育では、ソフトウェアの操作方法を教えることに多くの時間が割かれてきた。宮堂氏自身が担当してきた講座でも、操作教育に7割程度の時間を使っていた感覚があるという。
「AIエージェントがCAEツールを動かすようになれば、操作教育の比重は下がっていくだろう。その分、AIが出した結果を検証し、判断する力を養う教育に時間を割くことになる。さらに、AIエージェント自体の設計やマネジメントも教育に取り入れていく必要がある」(宮堂氏)
AIエージェントのマネジメントには、従来のCAEに関する知識に加え、Git、Docker、Python、API、JSON、MCP、Markdown、Skillsなど、ソフトウェア開発分野の知見も有用だという。
講演のまとめとして、宮堂氏は「CAE教育のコツ 2.0」を3つに整理した。
1つ目は、操作教育を減らし、検証/判断の演習を増やすことだ。演習のゴールを単に「解析を回せた」とするのではなく、「根拠や前提、妥当性を説明できた」に変える。
2つ目は、AIを「非常に頭の良い新入社員」と捉えることである。ただし、人間とは異なる存在であることを前提とし、出力は必ず人間がレビューする。AIによる提案には根拠や前提も併せて示させ、必要に応じてAI自身にもセルフレビューを実行させる。
3つ目は、AIマネジメントを教育目標に組み込むことだ。AIが参照してよい情報、見てはいけない情報、禁止事項などのルールをあらかじめ決め、参照元の置き場所も定めることで、「運用の型」を作る必要があるという。
宮堂氏は「AIは、確かにCAEの入り口を簡単にする。しかし、人が学ぶべきことがなくなるのではなく、より本質的な部分へ移っていくのではないかと考えている」と述べ、AIが解析操作を担うようになることを見据え、CAE教育の目的そのものを見直す必要があるとの考えを示した。
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