デジタルツインを実現するCAEの真価

CAEを設計者に使ってもらうには?メカ設計 イベントレポート(1/3 ページ)

「CAEユニバーシティ特別公開フォーラム2023」に登壇したサイバネットシステムの栗崎彰氏の講演「DX時代のためのCAE教育方法変化論」の模様を取り上げる。

» 2023年08月24日 09時00分 公開
[八木沢篤MONOist]

 サイバネットシステム主催「CAEユニバーシティ特別公開フォーラム2023」が2023年8月4日に開催された。本稿では、MONOist執筆陣の一人でもある、サイバネットシステム デジタルエンジニアリング事業本部 営業統括部 セールスエンジニアリング室の栗崎彰氏の講演「DX時代のためのCAE教育方法変化論」の模様をダイジェストでお届けする。

CAEはキャズムを越えたか?

サイバネットシステム デジタルエンジニアリング事業本部 営業統括部 セールスエンジニアリング室の栗崎彰氏 サイバネットシステム デジタルエンジニアリング事業本部 営業統括部 セールスエンジニアリング室の栗崎彰氏

 講演の冒頭、栗崎氏は「『CAEとそれに関わる人たちのポジションを何とかしてアップさせたい』というのが私の願いであり、この大きなテーマこそ私のライフワークだ」と述べ、栗崎氏自身が43年間携わってきたCAEのポジションが長らく変わらず、決して高くはない現状を憂うとともに、「このような状況のままでよいのか?」と危機感を示した。

 そもそも、CAEは“市民権”を得ているツールなのか――。栗崎氏は「キャズム理論」を引き合いに、「既に製造業の設計現場にとって、2D CADも3D CADも深くて大きな溝である“キャズム”を越えているが、CAEはどうか?」(栗崎氏)と問い掛け、CAEがキャズムを越え切れていない現状について、「『明日、CAEやってみる』という設計者はいるが、『明日、CADやってみる』という設計者はいない」と指摘する。

 2D CAD/3D CADの場合、既に欠かせないツールとして設計現場に浸透しているため、わざわざ「明日、CADやってみる」と宣言する設計者などいないということだ。一方、CAEの場合はCADほど設計現場に浸透していないため、「明日、CAEやってみる」といった言葉が聞こえてくるのだという。

CAEはキャズムを越えたか? CAEはキャズムを越えたか?[クリックで拡大] 出所:サイバネットシステム

CAEは設計者に使ってもらってなんぼ!

 続いて、栗崎氏は設計者にとってのCAEの定義/役割について、元パナソニックで関西における“CAEの大家”である森脇信康氏の言葉を引用し、次のように説明した。

 「CAEとは、形状や強度、材料、公差といった設計に関わるさまざまな情報の中から、最適な情報を選び出す意思決定を、論理的かつ体系的に支える“補助手段”である」(栗崎氏)。さらに、CAEは“羅針盤”の役割を果たすとし、栗崎氏は「解析結果を基に、私意のない工学的知見に基づく設計者の判断を加えることで、モノづくりの意思決定をより的確なものにしてくれる。また、設計のさまざまな場面で判断を求められる際、これまで培ってきた設計経験に照らし合わせ、意思決定を後押しする裏付けとして解析結果が役立つ」と説明。そして、こうした考えを踏まえた上で、栗崎氏は「設計者が行うCAEは、設計の判断のために使われることを第一優先とし、そのためには、CAEを使うのに手間が掛かってはならない」と助言する。

 もちろん、解析専任者が実践するハイレベルな解析がなければ、製品設計の高度化を推し進めることはできないが、「CAEを設計者に使ってもらう」という観点では”簡単に使えること”が何よりも重要になってくるという。

 では、実際に設計者CAEを推進する現場では、どのようにして設計者にCAEを展開しているのか。その代表的なアプローチとして、栗崎氏は「CAEのエキスパートである解析専任者がこれまで学んできたさまざまなスキルや知見をコンパクト化し、それらを講習会や手順書、技術サポートといった形にして設計者に展開している」と紹介する。

一般的によく見られるCAEの展開方法では設計に根付かない 一般的によく見られるCAEの展開方法では設計に根付かない[クリックで拡大] 出所:サイバネットシステム

 このようなアプローチはよく見られる伝統的なものであるが、設計者は結局「時間がかかる」「余計な作業が増える」「難しくて分からない」といった理由から、解析専任者へ相談したり、解析依頼をしたりといった方向へと進んでしまい、最終的には「自分たちがやらなくてもよい」という考えに落ち着いてしまう。栗崎氏は「こうした流れは、設計者がCAEツールを使えるようになってから約30年間、これまでずっと行われてきたものだが、その成果はどうだったか?」と述べ、従来の伝統的な展開方法ではCAEが設計に根付かないことを訴える。

 その一方で、従来の伝統的な展開方法で、設計者CAEをうまく推進できている現場があるのも事実だ。だが、これから先、ますます製品の多様化や複雑化が進み、働き方改革によって設計期間がさらに切迫するような状況になれば、「これまでと同じやり方のままではやっていけなくなる」と栗崎氏は指摘する。

 以上のような設計者へのCAE展開の実情を改善し、CAEを設計者に広め、浸透させていくためには、「CAEが設計の役に立たなければならない。設計の役に立つには設計者にCAEを使ってもらう必要がある」(栗崎氏)とし、「CAEは設計者に使ってもらってなんぼだ!」と栗崎氏は強調する。

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