では、設計の役に立つ、設計者が求めるCAEとは何か? これを追求するための考え方として、栗崎氏は「逆算のCAE」を紹介する。
逆算のCAEの考え方は、横軸をスケジュール(プロセス)、縦軸を要求仕様としたグラフで図示できる。ある決められた期限までに、ある目標値をクリアすべく設計を行っている状況を「現状」とした際、新たに「さらにスケジュールを短縮せよ」「さらに性能をアップせよ」といった要求を突き付けられたとする。このとき、設計者は何とかしてスケジュールを短縮しつつ、性能アップを図ろうとする。「逆算のCAEは、こうした要求を満足させられるようなCAEを設計者に提示するという考え方だ。例えば、スケジュール短縮であれば設計の効率化や高速化が求められるため、CAE側としては自動化やプロセス化といったアプローチで設計者を支援する。性能アップであれば設計の高度化が必要となるため、CAE側ではこれまでできなかった解析を実現するなど、設計の高度化を支える解析技術を提供する」(栗崎氏)。
設計におけるCAEの理想的な広がり方としては、構想設計、基本設計、詳細設計、試作/評価といった設計プロセスごとにCAEが溶け込んだ(組み込まれた)「In Process CAE」の状態が望ましい。「従来のCAEは設計の検証や確認のために、“その場限り”で使われる傾向にあった。そのため、CAEに必然性はなく、CAEデータにも価値がなかった。せっかく解析結果を示しても、ほとんどの場合が『あっ、OKね!』で終わってしまう。設計者がCAEを活用するには、各設計プロセスにCAEを組み込む必要がある」と栗崎氏は説明する。
各設計プロセスにおけるCAEの組み込み方に関して、栗崎氏は「全てを1つの同じCAEツールで賄うというのも無理がある。確かに“大は小を兼ねる”といえるが、ライセンス費用や解析時間の兼ね合いもあるため、なかなかそうもいかない」と述べ、設計プロセスごとに必要となるCAEが異なることを理解し、各設計プロセスにマッチしたツールや方法を選択すべきだと訴える。
構想設計では、初期設計段階で使うCAEとなるため、例えば、Ansysのリアルタイムシミュレーション「Discovery Simulation」のように、CAD形状から瞬時に解析結果が得られるようなツールが最適だという。基本/詳細設計の段階では、設計に必要なCAEを定義するとともに、「解析の徹底的な自動化を図るべきだ」と栗崎氏は述べる。さらに、設計の工学的なエビデンスとなるため、解析結果のレポート化とその管理も重要なポイントだとする。「特に、CAEによる解析結果の蓄積は、将来のAI(人工知能)活用に向けて欠かせない」(栗崎氏)。そして、試作/評価の段階では、HPC(ハイパフォーマンスコンピューティング/高性能計算)を活用したハイエンドCAEによる検証の仕上げを進めていく。
「世の中には既に、各設計プロセスに適したCAEツールが複数存在している。無理に1つのCAEツールを使うのではなく、適材適所で使い分けることが重要だ。場合によっては『Excel』であっても立派なCAEツールになり得る。設計プロセスに適したツールを選定するよう心掛けてほしい」(栗崎氏)
先ほど、基本/詳細設計の段階で「解析の徹底的な自動化を図るべきだ」と紹介したが、ウィザードやExcel連携、専用アプリケーションの活用など、そのアプローチには複数の選択肢がある。栗崎氏はそうした選択肢の中から、解析を行わない(アウトコア)手法として、サイバネットシステムが提案する「カプセルCAE(CAEのカプセル化)」の考え方を紹介した。
カプセルCAEとは、Excelをインタフェースに用いたCAEの自動化アプローチのことで、パラメータースタディー(パラスタ)による応答曲面やROM(Reduced Order Modeling)と呼ばれる低次元化モデリング、AI(人工知能)にCAEや実験の結果を学習させて解析結果を予測するサロゲートAIにより、簡単な入力だけで、答え(解析結果の予測)を瞬時に得ることができる。設計者が使うのはExcelファイルとなるため、メールに添付して関係者に配布することも可能だという。「設計者はカプセルCAEで得られた結果の中からどの答えを選ぶべきかに注力すればよい。それが設計者に問われる『力』だ」(栗崎氏)。
CAE×AIのアプローチは近年のトレンドの1つでもあるが、サイバネットシステムの社内では複数のPoC(概念実証)プロジェクトが進行しており、「既にCAEツールによる解析と遜色のない結果がサロゲートAIでも得られるようになってきている」(栗崎氏)という。
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