一方、さまざまな実験をする中で、CAE技術者であれば通常は選ばない処理も確認された。
例えば、高次要素へ分布荷重を設定する際、通常であればCAEツールに用意されたコマンドを利用できるところを、AIは荷重を各節点へ分配するPythonコードをわざわざ作成(自作)した。
宮堂氏は、この行動について「AIには労働コストという概念がない」と説明する。人間にとって手間の掛かる方法でも、AIにとって扱いやすい手段を選択する場合があるという。
ポスト処理でも、人間とは異なる選択が見られた。応力分布図は一見するとCAEツールのポストプロセッサから出力したように見えたが、内部を確認すると、「PyVista」を使って描画するPythonコードを作成していた。
別の例では、本来は六面体メッシュだったにもかかわらず、三角形メッシュのような図が出力された。処理内容を調べたところ、Pythonのグラフ描画ライブラリ「matplotlib」に備わる、三角形の格子を描画する機能「triplot」を使って強引に描画していたという。
「AIはコーディングの世界の住人である。人間とは『楽』の定義がそもそも違う。『人ならたぶんこうするだろう』という考えは、AIの世界では通用しない」(宮堂氏)
このため、AIが出した結果だけでなく、必要に応じてその処理内容まで確認することが重要となる。
さらに興味深い挙動として、AI自身にレビューさせると、自らの解析上の問題点に気付くこともあったという。
ある解析では、AIが低次三角形要素を使用していたが、「解析結果をレビューして」と指示したところ、局所的なピーク応力を評価するのであれば、2次要素を使うべきだとAI自身が指摘……。「それを知っているなら最初からそうしてほしいと思うが、なぜかこのようなことが起こる。これもAIの面白いところだ」と、宮堂氏は述べる。
こうした経験から宮堂氏は、“AIの出力を見て違和感に気付けるCAEの知識が重要だ”とした。違和感があれば処理内容を確認するとともに、AI自身にセルフレビューさせる方法も有効だという。
Codexでは、AIエージェントに作業上のルールや手順を伝えるための指示ファイル「AGENTS.md」に処理方法などを記述できる。
宮堂氏は、ポスト処理やレポート作成と、ソルバーの実行処理を分離するようAGENTS.mdで指示している。これを指定しないと、プリプロセスからレポート作成までを全て1つのPythonファイルにまとめてしまうため、「レポートを少し直して」と依頼しただけでもソルバーを再実行することがある。
「これは時間の無駄だ。そのため、ソルバーを無駄に回さないように指示しておく必要がある。このように、あらかじめ決まっている処理はAIエージェントに明示しておくとよい」(宮堂氏)
2つ目の実験では、より高度な構造非線形解析にAIエージェントを適用した。大変形、材料非線形、接触を含む問題である。
対象は、ゴムドームを平面上に置き、上側から平面で10mm圧縮した際の荷重−変位曲線を求める解析だ。AIには形状データとCSV形式の材料データを渡し、「解析計画を作成して」と指示した。
大まかな指示だったが、AIはCSVファイルが材料試験データであることに気付き、公称引張なのか、真引張なのか、圧縮試験なのかを確認してきた。摩擦条件についても指定していなかったため、どのように扱うのかを尋ねてきたという。
解析計画では、問題を2次元軸対称、大変形、超弾性、接触解析として認識した。「上から平面で押す」という指示についても、上側剛体平面を下降させるものと解釈し、解析方針を組み立てた。
材料については、Yeohの3項モデルとOgdenの2項モデルを材料試験データにフィッティングし、安定性と誤差を比較して解析用のモデルを選定する計画を作成した。
宮堂氏は「今回のように単軸試験データしかない場合、Yeohモデルが有効なことがある。この材料モデルの選択は非常に良いと感じた。このような専門的な部分も、AIは理解して実装できる」と評価する。
解析後に生成したレポートでは、YeohモデルとOgdenモデルの比較やカーブフィッティングの結果を示した他、2種類のメッシュサイズを使ってメッシュ依存性も確認した。
さらに、材料モデルやメッシュサイズによる荷重−変位曲線の違いをグラフ化した他、明示的に依頼していなかった変形図や接触圧力の結果も出力した。材料フィッティング誤差、メッシュ依存性、力の釣り合い、接触の食い込み量などを検証し、単軸試験データしかないことに関する注意点もレポートへ盛り込んだ。
宮堂氏はさらに、AIエージェントによる形状探索も試した。
Yeohモデルを基準に、圧縮変位10mm時の反力が30Nとなる形状を探索し、反力が同等であれば使用する材料が少ない、つまり物体の面積が小さい形状を良いものとする条件を設定。探索時間は1時間とし、時間を超過した場合には、その時点で得られている最良の解を報告するよう指示した。
さらに、試した全ての形状図、変形図、荷重曲線を報告書に含め、どのような形状変更が有効だったかも考察するよう求めた。
AIエージェントは、それまでの解析を通じて解析内容や形状、変形の仕方を把握した上で、肉厚を増やす、幅を小さくする、背を低くするといった形状変更を組み合わせる探索方針を立案した。その後も解析結果を見ながら方針を修正し、残り時間を考慮して追加する解析ケースを判断。時間が余った際には、メッシュ水準を変えた再検証も実施した。
「通常の最適化ツールであれば、まず実験計画法などでパラメーターを振るところから始まる。しかし、AIエージェントは、数学的な方法だけでなく、解析内容や一般知識を踏まえて、いきなり作戦を立てる。結果を見ながら作戦を修正することもできる」(宮堂氏)
最終的に、1時間で計14ケースを解析し、各ケースの結果や比較グラフをまとめた。
宮堂氏は「従来の最適化ツールでは、データを見て人が考察していた。AIエージェントの場合は、どの変更が効果的で、どれが効果的でなかったかまで文章で整理してくれる」と評価する。さらに、AIエージェントが非線形解析のテクニックを理解して実装できる他、こうしたヒューリスティックな探索にも利用でき、大量の解析ケースをレポートとして整理できる点も利点として挙げた。
一方、解析ケースの実行や結果整理などのルーティンワークは、これまで若手技術者が経験を積むために担ってきた仕事でもある。AIがこうした業務を代替していけば、若手技術者の経験機会が減り、スキル継承が難しくなる可能性があるとの懸念も示した。
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