限界性能はどこか? パナソニックの「設計AI」が導く勘と経験を超えた設計解:ITmedia Virtual EXPO 2026 夏 講演レポート(1/2 ページ)

パナソニック ホールディングスは、シミュレーションとAIを融合し、デバイス設計の自動化と高度化を目指す「設計AI」を開発している。「ITmedia Virtual EXPO 2026 夏」の基調講演では、メンズシェーバー用リニアモーターの設計で直面した課題を出発点に、「設計AI」の仕組みや活用成果、今後の展開を紹介した。

» 2026年09月29日 07時00分 公開
[長町基,MONOist]

 製造業向けのオンラインイベント「ITmedia Virtual EXPO 2026 夏」が、2026年8月25日〜9月25日に開催された。同イベントでは、企業事例や有識者の講演を通じて、モノづくりの戦略策定と課題解決につながるヒントを提示した。

パナソニック ホールディングス プロダクト解析センターの太田智浩氏 パナソニック ホールディングス プロダクト解析センターの太田智浩氏

 本稿では、各講演の中から、パナソニック ホールディングス プロダクト解析センターの太田智浩氏が行った基調講演「『設計AI』が切り開くモノづくり変革」の模様をダイジェストで紹介する。同社はシミュレーションとAI(人工知能)を融合し、デバイス設計の自動化と高度化を目指す独自の「設計AI」を手掛けている。太田氏は、その開発に至った課題や活用成果、設計現場への展開について語った。

 太田氏が所属するプロダクト解析センターは、パナソニック ホールディングスの技術部門に属し、解析評価技術を通じてグループの各事業会社を横断的に支援している。社外からの依頼にも対応し、研究開発から設計、試作/評価、量産/販売まで、製品づくりの幅広い段階で課題解決に取り組む。ユーザビリティ、材料分析、EMC、デバイス創造、信頼性など、8つのコア技術を持つ組織だ。

リニアモーターの限界性能が分からない

 太田氏は、「設計AI」に取り組むきっかけとなった課題を、メンズシェーバー「ラムダッシュ」のリニアモーターを例に説明した。高速リニアモーターは、ラムダッシュの性能を支える技術の1つである。シェーバー用リニアモーターには小型化と低コスト化が求められており、パナソニックは磁気構造と機構部品の両面から改良を重ねてきた。

 リニアモーターの小型化によって、シェーバーの性能を維持しながら駆動部をヘッド内に収められるようになった。これによりデザイン性が向上した他、顔へのフィット感や持ち運びやすさにもつながったという。

 小型化を進める上では、シミュレーションが有効なツールとなる。リニアモーターでは磁場、回路、運動の3つの現象が互いに影響するため、太田氏らは、これらを同時に扱う連成解析手法を開発した。実際の複雑な制御も考慮してひげをそる際の動的な性能を推定できる。

 しかし、シミュレーションを活用して小型化や低コスト化を進める中で、別の課題にも直面した。ある報告会議で、リニアモーターの「限界性能はどこにあるのか」と問われた際、太田氏は答えられなかったという。自らも性能の限界を把握できていないことに気付き、それを明らかにする必要性を感じた。

 さらに性能を高めようとすれば、新しい材料の採用や構造の複雑化によって、検討すべき設計パラメーターが増えていく。太田氏は、自らの設計スキルだけで性能をさらに引き上げることにも限界を感じたという。限界性能の把握と、膨大な設計パラメーターへの対応――。この2つの課題が、「設計AI」の開発につながった。

基本構造を決めずにAIがゼロベースで探索

 太田氏は、設計の自動化が求められる社会的な背景にも言及した。日本では生産年齢人口が減少しており、人手不足による企業の競争力低下が懸念されている。製造業では若年就業者の減少に加え、指導する人材や育成に充てる時間の不足など、人材育成の課題も生じている。太田氏は、「モノづくりを変革する必要があり、設計の自動化はその1つの手段になり得る」と述べた。

 パナソニックが開発する「設計AI」は、同社が強みとするシミュレーションとAIを融合し、デバイスを自動で素早く設計する技術だ。設計の自動化と高度化の両立を目指す。

パナソニック独自の「設計AI」とは パナソニック独自の「設計AI」とは[クリックで拡大] 出所:パナソニック ホールディングス

 従来の設計では、まず設計者が勘や経験を基に基本構造を決め、シミュレーションや実験を通じて寸法などのパラメーターを最適化する。ただし、最初に設定した構造が適切でなければ、いくらパラメーターを調整しても目標性能には届かず、基本構造から設計をやり直さなければならない。

 これに対し「設計AI」では、設計する領域を設定し、その中で性能を高められる構造をゼロベースで探索する。基本構造をあらかじめ人が決める方法と比べて、設計者の経験からは発想しにくい構造も検討できる。太田氏は、人には時間や経験による制約がある一方、AIを活用すれば、より広い設計空間を探索できる可能性を示した。

従来のアプローチと「設計AI」によるアプローチとの比較 従来のアプローチと「設計AI」によるアプローチとの比較[クリックで拡大] 出所:パナソニック ホールディングス

 ラムダッシュに搭載するリニアモーターへの活用例では、設計領域を設定し、AIに構造を探索させた。当初は出力の低い構造だったものが、計算を進めるにつれて高出力な構造へと変化。最終的には、設計者の勘や経験に基づく現行商品の設計値を上回る構造を導出したという。

「設計AI」の活用事例 「設計AI」の活用事例[クリックで拡大] 出所:パナソニック ホールディングス
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