同じ原料を入れても、装置や操作条件で反応特性が異なります。反応器を設計する際には、主に次の要素で考えます。
転化率は、投入した原料がどれだけ生成物側へ変化したかを表す指標です。この値は、目的物だけでなく副生成物/中間生成物も含めた転化を意味します。目的の生成物がどれだけ得られたかは選択率で判断します。そして設計/運転の評価軸は、転化率/選択率だけでなく、装置当たりの生産性やエネルギー原単位も併せた最適点探しになります。
バッチ反応器のBRでは、時間とともに濃度や温度が変化します。この変化に合わせて反応を停止させることで選択率を制御できます。連続反応器のPFRやCSTRでは流量による反応制御が主であり、転化率や選択率の制御難易度が上がります。
温度/濃度分布は、反応速度に直接影響を与える要素です。一般に、反応速度は濃度のべき乗/温度の指数関数(アレニウスの式)に従います。わずかなバラツキでも装置全体の挙動に大きな影響を与える可能性があります。例えば発熱反応において、部分的に温度が高い場所(ホットスポット)では、反応速度と発熱をさらに加速させ、選択率悪化や暴走リスクを高めます。
PFRでは入口付近が高濃度となるため反応が進みやすく、発熱反応ではホットスポットを生じやすくなります。流量制御や多管式による除熱設計が重要です。
図2 反応速度の計算式(右がアレニウスの式)、rA:原料Aの消費速度、k(T):反応速度定数、n:反応次数、CA:原料Aのモル濃度、A:頻度因子、Ea:活性化エネルギー、R:気体定数、T:絶対温度[クリックで拡大]滞留時間分布(Residence Time Distribution、RTD)とは、反応器に流入した流体が、その中にどれくらいの時間とどまってから出ていくかの分布を表すものです。連続的に供給し、抜き出す反応器では、全ての流体要素が反応器内に同じ時間滞留するとは限りません。滞留域/短絡流があれば、一部は極端に短い時間で出ていったり、別の一部は長くとどまったりします。これにより実際の反応器では設計に用いた理想モデルからのズレが生じます。
CSTRは滞留域/短絡流ができやすい機構であり、RTDは広くなる傾向にあります。対してPFRは理論的にはRTDが狭くなります。またCSTRを直列につなげることでPFRのようになり、反応特性に与える影響が似通ってきます。
今回はBR、CSTR、PFRの基本構造と運転の違いが反応特性にどう現れるかを整理しました。実務での正解は1つではありません。コストや保全性、制御性、品質のばらつき許容を総合評価して装置を選びます。迷ったときは優先したい指標を明確にし、それに伴い発生する不具合を解消するような設計を心掛けてみてください。
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