国内のごみ処理施設では、リチウムイオン電池(LiB)の混入による火災事故が年間1万件以上発生し、被害額は100億円規模に達するという。この問題の解決に向け、PFUはAIエンジン「Raptor VISION BATTERY」の提供を開始した。
PFUは2025年10月31日、イメージスキャナーの開発で培った光学技術/画像認識技術を応用し、自社開発した「廃棄物分別特化AIエンジン」のシリーズ第2弾「Raptor VISION BATTERY」を発表した。同日、これを搭載したX線装置「LiB検知システム」がIHI計測から発売された。
現在、国内の廃棄物処理施設では、リチウムイオン電池が原因となる火災事故が年間1万件以上発生していると報告されており、被害額は年間100億円規模に達するという。これらの事故は、ごみに混入した使用済み電池や電池内蔵製品が、収集/破砕の過程で損傷し発火することが主因だ。
特に近年は、モバイルバッテリーや電子タバコなど多様な製品にリチウムイオン電池が搭載されており、消費者が同電池を取り外さず廃棄するケースが増加している。施設火災のリスクは年々深刻さを増し、設備焼損やごみ処理の一時停止など社会生活への影響も拡大している。
そこでPFUは、リチウムイオン電池を検知するRaptor VISION BATTERYを開発した。同システムは、廃棄物処理ライン上で撮影されるX線透過画像を解析し、ごみの中に紛れ込んだリチウムイオン電池をAI(人工知能)が瞬時に検知する。従来の目視や簡易センサーでは見逃されやすかった電池を高精度に識別し、処理前の段階でリチウムイオン電池を排除することが可能になる。
Raptor VISION BATTERYの主な特徴は3つある。1つ目は高精度な認識により高い検知率を実現している点だ。デュアルエナジーX線で材質の特徴情報を含んだX線画像を撮影した後、PFU独自の認識アルゴリズムを用いたAIエンジンで、対象物を正確に特定することで、高い検知率とした。X線画像は1方向だけでなく2方向にも対応し、あらゆるごみが混在する中で除去対象物を認識できる。同社が複数の自治体とともに実施した実証実験に基づき、Raptor VISION BATTERYの検知率を算定した結果、94%だった。
これらの機能により、除去対象物の位置を特定しプロジェクターで作業者へ位置通知が可能になった。なお、デュアルエナジーX線とは異なるエネルギーレベルのX線を同時に照射し、それぞれの透過度を測定することで物質の識別を行う技術を指す。
2つ目はAIモデル再学習機能だ。検知するリチウムイオン電池の種類(角型、パウチ型、円筒型、乾電池)も経時的に変化することから、検知精度を維持するために、現場のデータを継続的に集約/学習してモデルアップデートする仕組みを、AIモデル再学習機能というサービスとして提供する。同機能は、Raptor VISION BATTERYが検知したリチウムイオン電池の画像データを定期的にクラウドサーバにアップロードし、収集した画像データを用いて再学習した認識モデルにアップデートする仕組みを採用している。
3つ目はクラウドサービス機能だ。同機能は、これまでデータ化されていなかったリチウムイオン電池などの除去対象物の検知数を、時間、日、月、年の単位に分けて表示できる。検知画像の確認、稼働実績データ(CSV形式)のダウンロードも行える。デジタルデータを活用することで、混入状況や実績把握、運営管理分析やリソースの最適化検討に役立ち、各施設でのより良い労働環境づくりに貢献する。
これらの特徴により、廃棄物処理施設の安全性が向上し、火災事故の削減が期待される。
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