EVで使用されている分厚い単一金属のバスバーは、交流かつ高周波の場合、「表皮効果」により電流が表面に集中して流れる。そのため、バスバーの中心部には電気が流れず、交流抵抗が増えて発熱してしまう。この問題を解決する高機能材料を三菱ケミカルが提案している。
電気自動車(EV)の製造では、走行距離の延長や安全性と性能の向上を目的に、軽量化を図れる材料、バッテリーやモーター、パワー半導体の熱マネジメントを行う高熱伝導性材料、パワーユニットの高性能化を後押しする次世代半導体材料、バッテリー材料などの高機能材料が求められている。
こういった状況を踏まえて、本インタビュー連載ではさまざまなメーカーが注力するEV向け高機能材料の取り組みを紹介する。第2回で取り上げるのは、三菱ケミカルがEVのインバーターケースなどの絶縁/放熱用途で提案する金属/樹脂フィルム積層材「アルセット」だ。
同社 フロンティア&オープンイノベーション本部 グローバルインダストリーパートナーシップ部 オートモーティブソリューション(AMS)チーム 担当部長の長野史智氏に、同社がEVのコア部品「e-Axle」向け材料などの開発を開始した時期や開発で苦労している点、アルセットの特徴、今後の展開について聞いた。
e-Axleは、モーターを動力とするEVなどが「走行するための主要部品」を1つにパッケージ化した駆動ユニットで、インバーター、モーター、ギヤ(減速機)などから成る。
MONOist 三菱ケミカルがe-Axle向け材料などの開発を開始した時期について教えてください。
長野史智氏(以下、長野氏) 当社ではコロナ禍前の2018年ごろに、「EVがこれから伸長するだろう」と考え、2020年以降にe-Axle向け材料の開発や展開を本格化した。現状はEV市場の成長は鈍化しているが、将来は確実に伸びるとみている。
MONOist e-Axle向けの材料開発ではどのような点で苦労していますか。
長野氏 開発当初から現在にかけて最も苦労している点としては、自動車メーカー側もまだe-Axleの最適解を模索中であることが挙げられる。自動車メーカーごとに、「何を重視するか」「どのような構成にするか」といったe-Axleの設計思想が異なり、統一された規格がない。加えて、顧客から「なんとなくこういうものが欲しい」という要望はあるものの、「具体的な数値(スペック)としてどのレベルが必要か」が明確になっていないケースが多い。
こういった要望を、材料としての具体的な性能値(耐熱温度、強度、絶縁性など)に変換し、それを踏まえて素材を開発することに苦労している。
MONOist e-Axle向けの材料開発をスタートした時期と現在を比べて、ニーズや市場はどのように変わりましたか。
長野氏 e-Axle向けの材料を開発した当初の想定以上に、高い出力とエネルギー効率が求められるようになっている。また、急速充電時間短縮のために、モーター駆動電圧を含むEVシステムの高電圧化が進んでおり、現在主流の400Vから、今後は800Vに、将来は1200Vになるとみられている。
こうした高電圧化への対応のためEVシステムの周辺材料には、より高い絶縁性(耐電圧性)が求められるとともに、発熱対策のために高い放熱性や耐熱性も求められるようになっている。
また、日本の自動車メーカーが4〜5年かけてEVを開発するのに対し、中国の自動車メーカーは1〜2年という短期間でEVを開発するケースもある。中国の自動車メーカーのニーズに対応するため、日本の素材メーカーもスピーディーな材料開発が必要となっている。
EV向け材料の一部では、中国のローカル素材メーカーなどが市場に参入し、激しい価格競争が起きている。
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