MONOist こういった市場環境の中で展開しているアルセットの特徴を教えてください。
長野氏 アルセットは、薄い樹脂フィルムと金属を強力にラミネートした複合材料で、接着剤を使わずに金属と樹脂フィルムをラミネートしているため、加工時の接着剤の凝集破壊が起きず、金属単体素材に近い加工が行える。コンデンサーのケース向けの製品として十数年前から展開している製品だが、近年は、e-Axle向けの新しいソリューションとして提案している。
EVを軽量化するために「金属部品の樹脂化」が進む中で、樹脂だけでは対応できない「電磁波シールド性」や「放熱性」を補う手段として、金属膜を持つアルセットが役立つと考えている。
アルセットは、独自の接着技術による金属と樹脂フィルムの貼り合わせるによって高い密着性を備えており、部品加工時の曲げや深絞りといった複雑な形状への加工にも対応しやすい。この「複雑な加工への対応」を実現する貼り合わせ技術は他社のキャッチアップが難しい点だと考えている。
加えて、アルセットを用いたソリューションも提案している。一例を挙げると、積層バスバー(EVの配線に利用されている棒状あるいは板状の電気部品)がある。これまで使用されている分厚い単一金属のバスバーでは、交流かつ高周波の場合、「表皮効果」により電流が表面に集中して流れる。そのため、バスバーの中心部には電気が流れず、交流抵抗が増えて発熱していた。
一方、複数のアルセットを重ねて、表皮深さより薄い金属を複数枚積層した「積層体」にすれば、各金属層では表皮効果の影響を受けずに電気が流れる。金属単体のバスバーと比べて交流抵抗が小さくなるので発熱を抑える効果が期待できる。
MONOist アルセットも含めて、三菱ケミカルのe-Axle向け材料に対する今後の展開について教えてください。
長野氏 現在はアルセットのコンセプト提案を行っている他、自動車メーカーなどによりアルセットの評価/検証が始まっている段階だ。まずは積層バスバーの用途で採用実績を作りたいと考えている。
また、既存のエンジニアリングプラスチックでは対応できない「800V以上の高電圧化」や「高温」に耐え得る樹脂を開発中だ。まだ完成品として発表する段階ではないが、顧客とスペックをすり合わせながら開発を進めている。
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