ペロブスカイト太陽電池の構成成分を深さ方向に高精度解析できる技術研究開発の最前線

東レリサーチセンターは、ペロブスカイト太陽電池の構成成分を深さ方向に高精度に解析できる技術を開発し、受託分析サービスを開始した。試料冷却下でGCIB-TOF-SIMSを活用したサービスとなる。

» 2025年12月15日 11時00分 公開
[MONOist]

 東レリサーチセンターは2025年11月18日、ペロブスカイト太陽電池の構成成分を深さ方向に高精度に解析できる技術を開発し、世界で初めて受託分析サービスを開始したと発表した。試料冷却下での「ガスクラスターイオンビームを用いた飛行時間型2次イオン質量分析(GCIB-TOF-SIMS)」を活用したサービスとなる。

 ペロブスカイト太陽電池は、光吸収層にペロブスカイト構造を有する有機、無機ハイブリッド材料を用いている。光吸収効率と電荷移動特性に優れ、軽量、柔軟、低コストといった特徴から、次世代太陽電池として注目されている。しかし、有機成分を含むことから水分や熱に対する化学安定性が低く、層構成や界面の成分分布は性能および劣化に大きく影響するため、nmスケールの高精度な解析が必要とされる。

 一方、GCIB-TOF-SIMSは、表面から深さ方向にわたる元素/分子の分布を高感度/高分解能で測定できるため、ペロブスカイト太陽電池の構造解析に適している。しかし、従来法では、測定時に生じる熱やその他の要因により、有機成分の揮発や材料の変性が起こり、正確な分布把握が困難だった。

 そこで東レリサーチセンターは、ペロブスカイト太陽電池の研究/技術開発において世界的に高い評価を受けている京都大学 化学研究所 教授の若宮淳志氏と連携し、試料を冷却した状態で測定する新たなアプローチを考案した。加えて、京都大学における材料設計の知見と東レリサーチセンターが培ってきた高精度分析技術を融合することで、より信頼性の高い評価手法を確立した。

ペロブスカイト太陽電池(逆型)の積層構造 ペロブスカイト太陽電池(逆型)の積層構造[クリックで拡大] 出所:東レリサーチセンター

 両者は同技術により、測定時に生じる有機成分の揮発やペロブスカイト材料の変性を大幅に抑制し、ペロブスカイト太陽電池の光吸収層や正孔回収層などの本来の成分分布を高精度に捉えることに成功した。

 さらに、同技術を用いた冷却下での測定は、ペロブスカイト材料の構成成分であるホルムアミジニウム(FA)やメチルアンモニウム(MA)といった低分子有機成分の揮発が抑えられ、二次イオン強度が安定し、ペロブスカイト層の本来の構造を忠実に反映した深さ分布が取得可能となった。

 深さ方向の分解能も従来の常温測定と比較して大幅に向上し、層構造の界面をより明瞭に捉えることができる。

ペロブスカイト膜(Cs、FA、MA、Pb、I、Br)/ITO電極のGCIB-TOF-SIMSによる各種イオンの深さ分布。Csはセシウム、Pbは鉛、Iはヨウ素、Brは臭素[クリックで拡大] 出所:東レリサーチセンター

 なお、同技術は「0℃以下での処理」に関する特許「特許第7742472号」として権利化されており、東レリサーチセンター独自の分析技術として展開していく。

 同社は、今回の技術を用いることで、ペロブスカイト太陽電池デバイスにおける深さ方向成分分布を高精度に解析できるため、今後の材料開発や製品評価において、より信頼性の高い分析基盤としての活用が期待されるという。

 今後は、試料冷却下でのGCIB-TOF-SIMS技術を活用した受託分析サービスを通じて、ペロブスカイト太陽電池の研究/技術開発を支援し、材料設計、界面制御、信頼性評価など、各開発フェーズにおける課題解決に貢献する。

 特に、界面における成分の偏析や分布の定量的な分析は、デバイスの性能安定化や長寿命化に直結する重要な要素であり、同技術はその解析手法として有効としている。

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