化学工学計算の中で物質収支とエネルギー収支は、化学プロセスの挙動を理解し最適化するために不可欠です。今回は、物質収支やエネルギー収支の基本的な考え方と計算事例を解説します。
「収支」は系内に出入りした量を等式で表す考え方です。物質収支は質量保存の法則に、エネルギー収支はエネルギー保存の法則に基づいています。つまり物質収支では、特定の物質やプロセス全体の流れを計算します。対してエネルギー収支では、熱や仕事としてのエネルギーの流れを計算します。
化学プロセスの設計では、最初に目的とする純度や製品の量(単位時間当たりの量)が与えられます。そして原料やプロセス上の制約を考慮しながら、収支計算により物質の流れや熱の流れを描くことで既知量(基準量)から未知量を推定します。これにより、プロセスの妥当性評価、運転条件の最適化、コスト評価などにつなげます。
物質収支を例に挙げると、次の一般式で表されます。エネルギー収支も同様です。
入力量-流出量+生成量-消費量=蓄積量
それぞれの量は以下のような意味を表します。
多くのプロセスは、時間とともに系内の物質量が変化しないように調整して安定した連続運転を行うようにします。この物質量が変化しない状態は定常状態と呼ばれ、蓄積量の項がゼロになります。まとめると次の式で表現されます。
入力量+生成量=流出量+消費量
物質収支計算について、トルエンとベンゼンを分離する単純な連続蒸留プロセスを例に考えてみます。トルエンとベンゼンの2成分のみを扱うことから、よく「二成分系」という言い方をします。
与えられたのは原料の組成や供給流量、そして取り出したいベンゼンとトルエンの純度です。ここから物質収支計算により、どのような条件で運転すれば良いのかを求めます。
まず全体の物質収支を考えます。
蒸留塔に入れた量と出た量は同じになるためF=D+Wで表されます。原料流量は既に決まっていることから次の式1で表されます。
式1:100kg/h=D+W
次にベンゼンに注目して式2で物質収支を計算します。後で連立方程式を解くために使用するのでトルエンに注目しても大丈夫です。
式2:0.40F=0.95D+0.10W
式1と式2で連立方程式を解くと、D=35.3kg/h、W=64.7kg/hであることが分かります。つまり蒸留後のベンゼンの流量が35.3kg/h、トルエンの流量が64.7kg/hです。
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