廃水中のアンモニウムを有価値化して再利用する新技術有害な廃棄物を資源に変える窒素循環技術(12)(1/2 ページ)

温室効果ガス、マイクロプラスチックに続く環境課題として注目を集めつつある窒素廃棄物排出の管理(窒素管理)、その解決を目指す窒素循環技術の開発を概説しています。今回は廃水中のアンモニウムを回収し、再利用可能な資源に転換する技術を紹介します。

» 2025年03月27日 08時00分 公開

廃水に交じって排出される窒素化合物

 ここまで、排ガス/排水中の窒素化合物を回収し、資源化する技術の最新開発状況を紹介してきました。今回は、排水中のアンモニウム(NH4)を選択的に回収し、資源化することができる吸着材のお話です[参考文献1]。

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 本連載の第4回では、日本で窒素化合物がどこから環境に排出されているかを紹介しました[参考文献2]。それによると、3分の1程度は排水を含む水関係の排出となっています。その排出源を紹介するために、環境省が実施している水質汚濁物質排出量総合調査の結果を本連載第3回にまとめています。

 日本国内で窒素含有排水を放出している事業場は1万4534カ所にも上ります[参考文献3]。その内訳は、尿処理施設、下水などの私たちの糞尿(ふんにょう)起源のところが最も多数を占めていますが、それ以外にも、表面処理施設、旅館業、金属製品製造業、畜産食品製造業など、多岐にわたります。

 排水中の窒素化合物のうち、NH4を選択的に回収し、資源化する技術の開発はさまざまなところで行われています。

 今回は、私が所属する産業技術総合研究所(産総研)が2025年3月12日にプレスリリースした、NH4の吸着材と、それを利用した連続廃水処理/塩化アンモニウム液資源化装置についてご紹介します[参考文献1]。これは、NH4濃度が1000mg/Lを超えるメッキ廃水の濃度を下水に排水可能な300mg/L前後まで低減し、回収したNH4を高濃度の塩化アンモニウム水溶液として資源化する技術です(図1)。

図1 産総研が開発した連続廃水処理/塩化アンモニウム液資源化装置([参考文献1]より転載) 図1 産総研が開発した連続廃水処理/塩化アンモニウム液資源化装置([参考文献1]より転載)[クリックで拡大]

アンモニアを選択的に吸着する吸着材

 この技術では、プルシアンブルー(PB)という顔料を改良して開発されたNH4吸着材が主役です。PBは18世紀に発明され、ゴッホや葛飾北斎が利用した青色顔料です。産総研では、プルシアンブルーおよびPBの金属イオンの種類と比率を変えたPB型錯体を活用し、大気中のNH3と水中のNH4を吸着、除去するための吸着材を開発してきました。水中のNH4を吸着するために、PBの鉄原子の一部を銅(Cu)に置換した銅プルシアンブルー型錯体(CuPB)や、コバルト(Co)に置換したCoPBも活用してきました[参考文献4〜5]。

 しかし、CuPBやCoPBはNH4の選択性が高く、他の物質があってもNH4を回収できることはよい点です。一方、いったんNH4を吸着してしまうと、そのNH4を脱離、再生させる際に高濃度の液を生産することが難しかったのです。今回、亜鉛(Zn)に置換した亜鉛プルシアンブルー型錯体(ZnPB)を活用することで、吸着したNH4を効果的に脱離させることができるようになりました。

 プルシアンブルーは鉄原子(Fe)とシアノ基からなるジャングルジムのような結晶構造を持っています(図2左)。PBの鉄原子の一部を銅に置換したCuPBは、内部に含むカリウムイオン(K)よりNH4を吸着しやすいため、NH4水溶液にCuPBを浸すとKを放出して、NH4を吸着します。CuPBのNH4吸着に関する選択性は、平衡定数(K)で知ることができます。平衡定数は図3に示した考え方で計算できます。

 つまり、図3ではNH4を吸着する速度「k1」がNH4を脱離する速度「k2」よりどれだけ速いかを示しています。なお、K以外のイオンはNH4との平衡定数が極めて大きいため、選択性の議論の際に問題にはなりません。

図2 銅プルシアンブルー型錯体(CuPB)と亜鉛プルシアンブルー型錯体(ZnPB)の結晶構造([参考文献1]より転載) 図2 銅プルシアンブルー型錯体(CuPB)と亜鉛プルシアンブルー型錯体(ZnPB)の結晶構造([参考文献1]より転載)[クリックで拡大]
図3 PBのNH4+吸着メカニズム吸着/脱離速度、平衡定数の説明([参考文献1]より転載) 図3 PBのNH4+吸着メカニズム吸着/脱離速度、平衡定数の説明([参考文献1]より転載)

 この平衡定数kが、CuPBは約8でした。これは、NH4の方がKより8倍吸着しやすいことを示しています。これは、CuPBが図2左図に示す立方晶の結晶構造をとることに由来しています。このPBの立方晶の結晶構造ではKやNaと比べて、NH4の選択性が上がることが知られています[参考文献6]。

 一方、図1右の通り、ZnPBはPB型錯体の中でもジャングルジムとは異なる結晶構造を取ります。平衡定数を調べると4程度と、NH4の選択性は残しつつ、脱離も容易であることが推定されます。

 このZnPBを粒状にして筒状のカラム容器に充填し、メッキ工業廃水の模擬液として、NH4が1260mg/L、Zn2が150mg/Lの水溶液を接触時間780秒の条件で通水し、カラム出口のNH4濃度を調べました(図2左)。

 通水初期は出口のNH4濃度が十分に低く、Zn2が含まれる模擬液からでもNH4を吸着し、廃水から除去できたことが分かります。通水が進むと出口のNH4濃度が上昇して最終的には模擬液とほぼ同じになりました。これはNH4をこれ以上吸着できなくなったためです。この様子を上記の式を用いてシミュレーションしたところ、ZnPBは1gでNH4を36mg吸着し、平衡定数は4.2と推定されました。

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