日本の窒素管理の現状、1年に下水として流れ込む水の中に48.4万tの窒素有害な廃棄物を資源に変える窒素循環技術(3)(1/2 ページ)

本連載では、カーボンニュートラル、マイクロプラスチックに続く環境課題として注目を集めつつある窒素廃棄物放出の管理(窒素管理)、その解決を目指す窒素循環技術の開発について紹介します。今回は、水における窒素排出の現状とその課題について採り上げます。

» 2023年09月15日 08時00分 公開

国内の窒素排出の現状

 窒素廃棄物の放出は、大きく分けて酸化窒素(NOx)、アンモニア(NH3)などとして大気中に放出されるケースと、アンモニウムイオン(NH4+)やタンパク質などの有機窒素として水中に放出されるケースに大別されます。今回は、特に水中に放出されるケースについてご紹介したいと思いますが、その前に、大気/水の両方を含めた窒素廃棄物の放出の現状についてご紹介します。

 国内の窒素廃棄物の排出状況については、農研機構(農業・食品産業技術総合研究機構)をはじめとするグループが、2021年に発表している報告が非常に参考になります。この報告書によると、人間活動に伴って発生する窒素廃棄物の量は年間526万〜609万トン(t)で、これは国民1人当たりにすると世界平均の約2倍とのことです。そのうち、半分以上は処理がなされており、そのまま環境に排出されるのは186万〜229万tとのことです。

 図1に排出源別・年別の排出量を示します。まず、窒素廃棄物の排出量は減少傾向にあります。発生する窒素廃棄物の量はそれほど変化がないことから、処理されている比率が増えていると思われます。次に、排出源別の排出量を見てみましょう。主な排出源は、廃棄物、下水、農業(作物/家畜/草地)、エネルギー、製造産業となっています。廃棄物/下水については、処理をしない、または処理後に生じる残留分の排水が主体となっています。農業は畜産/農地からの排出、エネルギー、製造産業では、発電などに用いる燃焼炉または自動車などの移動体からのNOx排出が主体のようです。これらの主な排出源ごとの対策が今後も必要であると示唆されます。

図1 窒素廃棄物の排出源別/年別の排出量(参考文献[1]より転載、一部筆者修正)。[クリックで拡大] 出所:農研機構

 なお、この報告書では、「処理にも資源・エネルギーを要することから、環境面では最善の方法ではありません。窒素収支は、横ばいで推移していた廃棄窒素そのものを低減する窒素利用への転換が必要であることを示しました」と結論付けています。まさに、これが本連載の主題である、窒素循環技術の開発が目指すところなのです。

国内の水質汚濁法調査

 では、今回の本題である、水中に排出される窒素廃棄物について話を移します。日本における排水処理についての全体像は環境省が実施している「水質汚濁物質排出量総合調査」を見るのが良いでしょう。最新の令和3年度版によると、国内で窒素含有廃水を排出していると報告している事業場の数は、なんと1万4534カ所もあります。図2に、産業分類別の事業場数を示します。し尿処理や下水処理など、糞尿処理を行っている事業場が最も多いです。旅館、畜産食料品、飲料などの農業/食品産業や、表面処理やめっきなどの工業系施設にも多く、窒素廃棄物はさまざまな産業から排出されていることが分かります。

図2 水質汚濁物質排出量総合調査における産業分類別の窒素排出を報告している事業場数(参考文献[2]を基に筆者作成)[クリックで拡大] 出所:環境省

下水道における窒素廃棄物排出の現状と課題

 ここまで見てきたように、下水道などの糞尿処理を行う施設は主な窒素廃棄物を排出する施設の1つです。では、下水処理場の現状と課題を見てみましょう。下水処理場の窒素の出入りなどについては、研究者の小島啓輔氏らが詳細な検討を行っています。図3にその概要を示しますが、下水として流れ込む水の中に48.4万t/年の窒素が含まれています。このうち、処理され無害な窒素ガスとなるのが17.6万t/年です。下水処理場から河川などに出る放流水にはまだ、17.4万t/年の窒素化合物が残っている試算です。

 また、脱水した残りの固形分である脱水汚泥には13.4万t/年の窒素廃棄物が残っています。この脱水汚泥の行き先はさまざまで、焼却されるもの、堆肥として使用されるものなどがあります。現在では、堆肥などとして活用される量は少なく、焼却の場合は燃料を追加使用するケースが多いことから、資源/エネルギー活用の点からも課題が指摘されています。

 少なくとも、放流水中の17.4万t/年は、環境中に排出されるので、最低35%の窒素廃棄物は処理されずに環境中に放出されることになります。今後の課題としては、この放流水中の窒素廃棄物や、脱水汚泥のうち、利用されずに環境中に排出されるものを、資源/エネルギーをかけずにいかに減らしていくか、ということになります。

図3 下水道施設における窒素の出入りの試算例(参考文献[3]より転載)[クリックで拡大] 出所:下水道協会誌

 小島氏らは、下水中の窒素分だけで、大きなエネルギーポテンシャルがあるとの試算も行っています(図4)。下水中の窒素廃棄物をアンモニアに変換し、エネルギー利用すると、年間約56万tのCO2削減効果があると試算しています。さらに、下水汚泥などの処理の際に発生する分を足し合わせると、合計約290万t/年のCO2削減効果が期待できる、とのことです。これは、非常に重要な示唆といえるでしょう。ごみであった窒素廃棄物を有効利用することができれば、それによる利益だけでなく、これまで消費してきた処理に要するコストも削減できる、一挙両得になり得るのです。特に、現在の排水処理は多大なエネルギーを消費しており、その効果は特に大きい、といえるでしょう。

図4 下水中窒素廃棄物の有効利用による省エネ効果の試算例(参考文献[3]より転載)[クリックで拡大] 出所:下水道協会誌
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