2024年のエレクトロニクスフィルム世界市場 基板/回路分野が前年比15%増製造マネジメントニュース

富士キメラ総研は、AI(人工知能)サーバや車載半導体などに使用されているエレクトロニクスフィルムの世界市場に関する調査結果をまとめた「2025年 機能性高分子フィルムの現状と将来展望 エレクトロニクスフィルム編」を発表した。

» 2025年05月13日 07時30分 公開
[遠藤和宏MONOist]

 富士キメラ総研は2025年5月9日、AI(人工知能)サーバや車載半導体などに使用されているエレクトロニクスフィルムの世界市場に関する調査結果をまとめた「2025年 機能性高分子フィルムの現状と将来展望 エレクトロニクスフィルム編」を発表した。

 この調査では、ディスプレイ分野12品目、半導体分野9品目、基板/回路分野12品目の機能性エレクトロニクスフィルムの市場の現状を把握し、将来を予想した。

機能性エレクトロニクスフィルムの世界市場について

 基板/回路分野の市場は、最終製品であるスマートフォンやサーバ、電動車(xEV)などの生産動向に強く影響される。2024年は規模が大きいフィルムの伸びがけん引し、同市場は前年比15.0%増の8767億円が見込まれる。

 フレキシブルプリント基板(FPC)関連は、スマートフォンの需要が大半を占めるが、近年はxEVに搭載されるリチウムイオン電池(LiB)向けが伸びている。2024年までは欧州や中国におけるEV市場の停滞の影響を受けてやや伸び悩んでいるが、中長期的には需要増加が予想される。

機能性エレクトロニクスフィルムの世界市場のイメージ 機能性エレクトロニクスフィルムの世界市場のイメージ[クリックで拡大] 出所:富士キメラ総研

 また、リジッド基板(マザーボード基板、パッケージ基板)で使用されるフィルムは、サーバや高速通信機器などデータセンター関連、中でもAIサーバ関連の需要が増加しており、今後の伸びが期待される。パッケージ基板の大型化や層数増加も採用されるフィルムの伸びに貢献するとみられる。

 市場をけん引するフィルムコンデンサー用フィルムは、家電製品や車載システム、産業機器などで幅広く採用されており、近年はxEVの駆動用インバーターや再生可能エネルギー関連で需要が増えている。フレキシブル銅張積層板(FCCL)はスマートフォンの需要が大きいが、車載電装化に伴うシステム搭載増による採用拡大、軽量化を目的としたワイヤハーネスから長尺FPCへの置き換えが進むことなどから、車載向けで伸びている。層間絶縁フィルムは、主にFC-BGA基板に採用され、サーバ用CPUや高速通信機器などデータセンター関連需要の増加に伴い大きく伸びるとみられる。

 半導体分野は、2022~2023年にかけて、エレクトロニクス機器の需要低迷などを背景に半導体メーカーが在庫調整を行ったため、使用されるフィルムの需要も減少した。

 2024年はマイコンやパワー半導体などの汎用デバイス市場は低調であるが、メモリや先端ロジックなど、サーバやデータセンターなど通信関連で採用される半導体の需要は増えており、市場は前年比11.1%増の4366億円が見込まれる。特に、生成AI市場の伸びによりサーバ用CPUやAIアクセラレーターの需要が増加しているため、使用されるフィルムの伸びが続くとみられる。長期的にも生成AI関連の投資拡大、xEVや車載電装化の進展を背景にフィルム市場の拡大が予想される。

 大幅な伸びが期待されるのは非導電性接着フィルム(NCF)だ。AIサーバに使用されるHigh Bandwidth Memory(HBM)に使用される接着フィルムで、生成AI市場の拡大を背景に需要が増えている。搬送資材で使用されるキャリアテープやカバーテープは、小型化が進んだチップ部品を効率的に取り扱うことができるため、自動化や省人化ニーズの高まりを受けて伸びている。バックグラインドテープは高付加価値品の比率が上昇している。

 ディスプレイ(LCD、OLED)分野は、新型コロナウイルス感染症の流行時に特需が起きた反動により、2022年頃までは市場が低迷していたが、以降は回復に向かっている。2024年は、テレビやノートPC、スマートフォンなどの需要が増えた他、車載ディスプレイが伸びたことにより、市場は前年比9.4%増の1兆630億円が見込まれる。

 LCDはTVの大型化により面積ベースで年率3%前後、OLEDはLCDからの需要シフトによって面積ベースで年率5%から8%の成長となっているため、この分野のフィルムも堅調な伸びが予想される。今後、TVサイズの大型化や車載ディスプレイの搭載台数増加に伴い市場は堅調な拡大が予想される。

 現状は、輝度向上フィルムや偏光板保護フィルム、表面処理フィルム、プロテクトフィルム、FPD用離型フィルムなどのLCD関連部材の規模が大きい。今後、高い伸びが期待されるのはミニLEDやOLEDの関連部材である。ミニLEDで使用されるQDシートは、量子ドット技術を応用したテレビ(QD-TV)の販売増に加え、ゲーミングモニターやハイエンドPCモニターでミニLEDバックライトユニットの採用が増えるため、伸びるとみられる。また、OLED関連部材である円偏光板保護フィルムは、OLEDパネルを採用したディスプレイの増加に伴い需要増加が期待される。

注目市場の概要

層間絶縁フィルム

 層間絶縁フィルムに関しては、セミアディティブ工法(SAP工法)で製造される半導体パッケージ基板において、ビルドアップ層を形成する層間絶縁フィルムを対象とした。同フィルムは、要求性能が厳しいMPUやCPUにおいて、小型で高密度配線が要求されるFC-BGA基板やFC-CSP基板に使用される。FC-BGA基板向けが大半を占め、現状、日本メーカーがシェアを独占しており、生産も日本で行われている。

 2023年の層間絶縁フィルム市場は、サーバやPCなどセット機器市況の悪化や在庫調整の影響により大幅な縮小となったが、2024年はAIサーバの伸び、FC-BGA基板のサイズアップや層数増加により、同10%以上の伸びが見込まれる。今後はサーバや通信機器市場の回復に伴い、堅調な市場拡大が予想される。

 層間絶縁フィルムの低誘電対応品は、通信機器向けで主にデータセンター内のスイッチICやルーターICで採用が進んでいる。低熱膨張対応品は、サーバ用CPUなど大型のFC-BGA基板の反り防止を目的に採用されている。近年は、低熱膨張と低誘電対応の両立を目指して開発が進められている。汎用品はゲーム機用System on Chip(SoC)や車載SoCなど民生機器で使用されている。

NCF

 NCFに関しては、シリコン貫通ビア(TSV)構造のDRAMにおけるウェハー積層時の接合材料と、CPUなどのICチップの一次実装時に用いるフィルム状先付けアンダーフィルを対象とした。

 NCFは、複数のDRAMチップをTSVプロセスで積層するHBMで主に採用されている。AIサーバに使用されるAIアクセラレーターは、GPUとHBMで構成されるため、生成AI市場の急伸により需要が増えており、2024年の市場は同2.2倍が見込まれる。大手HBMメーカーが生産能力を増強しており、HBM向けは堅調な伸びが期待されることから、今後も市場拡大が予想される。HBM以外でTSVプロセスを使用する3Dパッケージやアンダーフィル用途でも底堅い需要が予想される。

 次世代のHBMチップ間接合技術であるハイブリッドボンディング(接着層を使用せずチップ同士を接合する技術)の使用が拡大すると、NCFの使用量が減少するため、2028年以降は伸びが鈍化するとみられる。

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