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» 2023年09月15日 08時00分 公開

日本の窒素管理の現状、1年に下水として流れ込む水の中に48.4万tの窒素有害な廃棄物を資源に変える窒素循環技術(3)(2/2 ページ)

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窒素廃棄物の排出が環境に与える影響と課題

 窒素廃棄物を含む排水を環境中に放流した場合、どのような影響があるのでしょうか。欧州では、硝酸汚染などが深刻ですが、日本国内では、富栄養化が大きな問題と言えます。富栄養化とは、窒素やリンなどの栄養素が増え過ぎることです。プランクトンが大量発生して水中での酸素不足が起こり、生物が死んでしまうなどの影響が出ます。赤潮は、富栄養化が原因の1つです。

 富栄養化は特に1950〜1970年代に深刻な問題になりました。それ以降、日本では水処理を進め、前述の通り、現在では処理技術の普及によりかなりの窒素廃棄物の環境への排出量を減らすことに成功しています。しかしながら、まだ完全に問題が解決した、とはいえません。

 例として、霞ケ浦の事例を紹介しましょう。霞ケ浦は水深が浅く、湖水の交換日数が200日かかることなどから、水質が汚濁しやすい湖として知られています。1970年代から、富栄養化防止条例の制定などを通じ、水質浄化を推進していますが、窒素、リンともに大きな改善は見えていないようです。例えば、窒素でいうと、全窒素濃度は、1980年が0.91mg/L、2020年が0.94mg/Lとほとんど変化はありません。環境基準値は0.4mg/Lなので、大きく超えている状況が続いていることが分かります。そのため、霞ケ浦では、対策開始から約50年経過した現在でも水質保全計画を立て、積極的な改善を目指しているのです。

図5 霞ヶ浦(参考文献[4]より転載)[クリックで拡大] 出所:環境省水・大気環境局

 一方で、富栄養化対策が進み、逆に栄養分が足りない「貧栄養化」で苦労している地域もあります。例えば、瀬戸内海では対策により、栄養分の負荷量が年を追うごとに減ってきています。1979年には666t/日だった負荷量が、2014年には390t/日まで減ってきています。また、栄養分が減りすぎて、水産業などに影響が出ています。典型的なのがノリの養殖です。海苔は、色の黒い方が高く売れる、とのことです。そして、色が黒くなるには窒素分が必要なのですが、貧栄養化によって海苔の色が落ちて値段が下がってしまい、養殖業者が困るという事態が起きているのです。

図6 窒素分施肥による海苔の色の違い(参考文献[6]より転載)[クリックで拡大] 出所:香川大学

 その解決に向けて、海苔の収穫前の時期に下水処理場からの窒素排出量を増やす、あるいは硝酸アンモニウムなどの窒素分を施肥するといった対策がとられています。香川大学の研究によると、施肥により見た目でも海苔の色が変わり、単価が4円から5.99円と1.5倍にも上がったとのことです(図6)。このように、排出をとにかく下げればよいというわけではない場合もあります。ただ、実際の瀬戸内海での窒素濃度は、外海の影響や海底との間の出入りもあり、排出削減で直接的に制御できるわけではないことに注意が必要です。

最後に

 窒素廃棄物の環境排出、特に水に関する現状と課題についての日本国内の状況をご紹介しました。日本では、排水前の処理がかなり普及しているため、他国に比べ、その問題の深刻度は軽い、といえるかもしれません。一方で、処理には多大な資源/エネルギーを消費しているため、その改善法として、省エネルギー型の窒素循環技術の開発が期待されているのです。また、霞ケ浦と瀬戸内海の例のように、窒素管理は一律に減らせばよい、というものではありません。豊かな川/海を維持していくには、地域ごとに適切な対策を取っていく必要があるのです。そのためにも、多様な技術を準備し、適材適所で使っていることが求められています。(次回へ続く

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筆者紹介

産業技術総合研究所 首席研究員/ナノブルー 取締役 川本徹(かわもと とおる)

産業技術総合研究所(産総研)にて、プルシアンブルー型錯体を利用した調光ガラス開発、放射性セシウム除染技術開発などを推進。近年はアンモニア・アンモニウムイオン吸着材を活用した窒素循環技術の開発に注力。2019年にナノブルー設立にかかわる。取締役に就任し、産総研で開発した吸着材を販売中。ムーンショット型研究開発事業プロジェクトマネージャー。博士(理学)。


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