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脱炭素とマイクロプラスチックに続く第3の環境課題「窒素廃棄物」の厳しい現状有害な廃棄物を資源に変える窒素循環技術(1)(1/2 ページ)

本連載では、カーボンニュートラル、マイクロプラスチックに続く環境課題として注目を集めつつある窒素廃棄物放出の管理(窒素管理)とその解決を目指す窒素循環技術の開発について紹介します。今回は、窒素管理の議論が起こりつつある背景についてご説明します。

» 2023年07月03日 08時30分 公開

環境問題から要求される窒素管理

 私たちが生活し、産業活動を進めると、どうしても環境に負荷をかけてしまいます。その問題を解決すべく、人類はさまざまな技術を開発してきました。例えば、今現在、技術開発が大きく進んでいるのがカーボンニュートラルの分野です。二酸化炭素(CO2)をはじめとする温室効果ガス(GHG)を人間が大量に放出し続けている結果、地球の温度が上がっていると指摘されています。

 この問題を解決するため、風車を洋上に浮かせて発電する浮体型洋上風力発電、CO2を大気中から直接回収するダイレクトエアキャプチャー(DAC)技術、石炭などの石油燃料の代わりに太陽光発電などの再生可能エネルギーで合成したアンモニアを燃料として利用するアンモニア燃焼など、これまでになかった技術が次から次へと開発されています。最近ではマイクロプラスチック問題も盛んに議論されています。2022年3月に開催された第5回国連環境総会では、法的拘束力のある国際文書策定に向けた委員会の設立が決定されました。

 これらの課題の次に俎上(そじょう)に載せられそうなのが窒素廃棄物の問題です。ここでいう窒素廃棄物とは、窒素肥料のうち利用されずに土に吸収されるものや、残飯として廃棄されるものに含まれるタンパク質などに加え、排ガスや廃水に含まれる窒素酸化物(NOx)やアンモニア、有機物、さらにはGHGとしても知られるN2O(亜酸化窒素)などが挙げられます。排ガス中のアンモニアやNOxは酸性雨やPM2.5の原因ですし、水中の窒素化合物は富栄養化、硝酸汚染などを引き起こします。

 窒素廃棄物が問題になっている大きな理由として、アンモニアをはじめとする窒素化合物の消費量が増えていることが挙げられます。20世紀初頭にアンモニアの大量生産を可能にしたハーバーボッシュ法が発明されました。それ以降、100年の間に窒素化合物の生産量は当時の9倍に達し2019年には1.8億トン(t)のアンモニアが生産されています。これは基礎化学品の中で最大の生産量との指摘もあり、さらに今後も増えると考えられています。また、生産されたアンモニアのうち約8割は肥料として使用されています。ハーバーボッシュ法は人類を飢餓から救う大きな発明でしたが、一方で、世界で最も生産されている基礎化学品が環境に散布される、という状況を生み出しているのです。

 窒素廃棄物の問題があらわになってきたのは、2009年に発表された「プラネタリーバウンダリー」という概念がきっかけです。プラネタリーバウンダリーとは以下の様な考え方です。気候変動、オゾン破壊、窒素廃棄物など、さまざまな環境破壊要因について、地球という惑星はある程度の回復力を持っています。ですので、完全に禁止せずとも、ある程度なら問題が大きくなりません。しかし、その回復力を超えて環境破壊が進むと元に戻れなくなる、その限界値をプラネタリーバウンダリーと呼んだのです。そのプラネタリーバウンダリーの中で、最も深刻な問題として、生物の多様性減少とともに、窒素廃棄物の放出が挙げられたのです。

プラネタリーバウンダリーのイメージ[クリックで拡大]

 さらに、前述の2023年第5回国連環境総会では、実は窒素廃棄物についても決議がなされました。それは、(1)窒素廃棄物を2030年までに顕著に減少、(2)国家行動計画に関する情報の共有、の2点を各国に奨励する、というものでした。これを受け、日本ではすでに環境省が「持続可能な窒素管理に係るアクションプランの策定」について検討を始めています。

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