実際にメッキ廃水模擬液を使用した試験でも、ZnPBの吸着量はCuPBの吸着量より1.2倍多く、平衡定数も4前後が維持されることが分かりました。次に、NH4+を吸着したカラムに2.1mol/Lの塩化カリウム(KCl)溶液を通水してNH4+を脱離したのち、改めてメッキ廃水模擬液を通水しNH4+を吸着させることを500回繰り返しました。その結果、500回の吸着/脱離でも吸着挙動はほぼ変わらず(図4左)、吸着時の吸着量と脱離時のNH4+回収量も維持されました(図4右)。
次に、このZnPB粒を利用してメッキ廃水を連続的に処理できる装置を開発しました(図5)。この装置は8本のカラムを並べて連結した構造をしています。8本のカラムは、「(1)廃水を通水してNH4+をZnPBに吸着」「(2)KCl水の通水によりNH4+を脱離させると同時に塩化アンモニウム(NH4Cl)濃縮水を製造」「(3)カラムの乾燥」の一連の役割を時間差で順番に繰り返すことで連続的な処理を可能とします。
まず、メッキ廃水の模擬液(NH4+は1260mg/L、Zn2+は150mg/L)を原水として装置の動作を確かめました。模擬液を処理した後の処理水はNH4+濃度を310mg/Lまで低減し(表1)、下水にNH4+含有水を排水する際の基準となる濃度(489mg/L、窒素換算380mg/L以下)を下回りました。
また、得られたNH4Cl濃縮水はNH4+濃度で原水のNH4+濃度を21.4倍に濃縮することに成功しました。この時のNH4Cl濃度は8.1%と高い値を得られ、これは工場での再利用が可能と期待されます。
次に、同様の試験をメッキ工場現地で実際の廃水を利用して行いました(表1)。この場合でも、処理水のNH4+濃度は263mg/Lまで低減され、濃縮水のNH4Cl濃度も4.5%に達しました。実廃水の時のNH4Cl濃度は模擬液の場合と比べ若干低くなりましたが、これは乾燥工程などの見直しにより、模擬液と同様の8%程度まで向上できると考えています。
このように、ZnPB粒は実廃水でも利用可能な吸着材としてその性能を確認できました。この技術は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託事業「ムーンショット型研究開発事業(2020〜2024年度)」による支援を受け開発されました。フソウではこのZnPB粒の量産を開始し、2025年4月よりサンプル出荷の開始を決定したとのことです。
今回紹介したように、廃水中の窒素化合物を資源化する技術はどんどん開発が進み、一部は実用化されています。将来的には、廃水中の窒素化合物をN2などに無害化するのではなく、資源化することが進み、「廃水の有価値化」が進むかもしれません。
産業技術総合研究所 首席研究員/ナノブルー 取締役 川本徹(かわもと とおる)
産業技術総合研究所(産総研)にて、プルシアンブルー型錯体を利用した調光ガラス開発、放射性セシウム除染技術開発などを推進。近年はアンモニア・アンモニウムイオン吸着材を活用した窒素循環技術の開発に注力。2019年にナノブルー設立にかかわる。取締役に就任し、産総研で開発した吸着材を販売中。ムーンショット型研究開発事業プロジェクトマネージャー。博士(理学)。
[1]「プルシアンブルー」でアンモニア窒素循環を駆動 −産業廃水中のアンモニアを回収・資源化する吸着材のサンプル出荷を開始−、産総研プレス発表(2025/3/12)(2025/3/16確認)
[2]有害な廃棄物を資源に変える窒素循環技術(4)PM2.5や悪臭の原因にも、大気に排出される窒素廃棄物の現状(2025/3/16確認)
[3]有害な廃棄物を資源に変える窒素循環技術(3)日本の窒素管理の現状、1年に下水として流れ込む水の中に48.4万tの窒素(2025/3/1確認)
[4]D. Parajuli, H. Noguchi, A. Takahashi, H. Tanaka, T. Kawamoto, Ind. Eng. Chem. Res. 2016, 55(23), 6708−6715
[5]Y.Jiang,K. Minami, K. Sakurai, A. Takahashi, D. Parajuli, Zl. Lei, Z. Zhang ,and T.Kawamoto, RSC Advances, 2018, 8, pp34573-34581
[6]M.Asai,A.Takahashi,K.Tajima,H.Tanaka, M. Ishizaki, M. Kurihara and T. Kawamoto, RSC Advances, 2018, 8, pp37356-37364 DOI:10.1039/C8RA08091G
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