10万原子のシミュレーションを1週間で、富士通MI技術の「異次元の高速化」マテリアルズインフォマティクス最前線(7)(1/3 ページ)

本連載ではマテリアルズインフォマティクスに関する最新の取り組みを取り上げる。第7回は、全固体電池界面などの構造解析を高速、高精度で予測できる分子動力学シミュレーション技術「GeNNIP4MD」の開発背景や特徴、今後の展開について聞いた。

» 2026年02月12日 07時00分 公開
[遠藤和宏MONOist]

 国内のメーカーでは、製品のニーズの多様化や開発期間短縮の影響で、扱う素材の高品質化と開発スピードの向上が求められている他、海外拠点でも国内製品と同様の品質を実現することが必要となっている。しかし、研究者や技術者のノウハウに依存したこれまでの手法では対応が難しい状況だ。

 解決策の1つとして、材料開発の速度と精度を向上させるために、マテリアルズインフォマティクス(MI)やプロセスインフォマティクス(PI)を活用する企業が増えつつある。そこで本連載では、国内製造業におけるMIやPIの最新の取り組みを紹介する。

 第7回で取り上げるのは富士通だ。富士通は2025年12月1日、AI(人工知能)を活用して全固体電池界面などの構造解析を高速、高精度で予測できる分子動力学(molecular dynamics、以下MD)シミュレーション技術「GeNNIP4MD」を開発したと発表した。

 同社 富士通研究所 コンピューティング研究所 マテリアルズインフォマティクスPJ シニアリサーチマネージャーの坂井靖文氏、開発担当の吉本勇太氏、開発担当の松村直樹氏、同社 グローバルソリューションBG クロスインダストリーソリ事業本部 Digital Shifts事業部マネージャーの溝渕真名武氏に、GeNNIP4MDの開発背景や特徴、今後の展開などについて聞いた。

公開NNPの課題

 近年、材料物性を原子レベルで予測する手法として、古典力場や第一原理計算を用いたMDシミュレーションが利用されている。しかしながら、古典力場を用いたMDシミュレーションは、計算速度が速いが、数理モデルの限界があり計算精度が低い。第一原理計算は、計算精度は高いが、計算速度が遅いという問題がある。高速/高精度に予測する手法として、ニューラルネットワーク力場(Neural Network Potential、以下NNP)を用いたMDシミュレーションに関心が寄せられている。

MDシミュレーションを用いた材料開発の課題 MDシミュレーションを用いた材料開発の課題[クリックで拡大] 出所:富士通
富士通 富士通研究所 コンピューティング研究所 マテリアルズインフォマティクスPJ シニアリサーチマネージャーの坂井靖文氏 富士通 富士通研究所 コンピューティング研究所 マテリアルズインフォマティクスPJ シニアリサーチマネージャーの坂井靖文氏

 坂井氏は「全固体電池の界面に使う材料などの開発現場からは、『最低でも1万原子以上の規模でシミュレーションしたい』という声があるが、従来の第一原理計算では数百原子程度が限界だった。そこで、ニューラルネットワークを用いて、第一原理計算並みの精度を保ちながら、計算速度を劇的に速くするNNPが注目されている」と説明した。

 その上で「材料開発の現場では、実験主体だとコストが多くかかり非効率であるため、MDシミュレーションで物質の性質を予測し、その結果を解析して次の試作につなげているケースも多い」と補足した。特にこの数年では、さまざまな種類の材料を含む数千万個のデータで訓練されたNNP(以下、公開NNP)が公表され、活用が広がりつつあるという。

 しかし、公開NNPを用いたMDシミュレーションでは、特に全固体電池のような複雑材料で、シミュレーション中に材料構造が崩壊するという問題がある。

 大量データで訓練された多くの公開NNPでは、グラフニューラルネットワーク(graph neural network、以下GNN)と呼ばれる、表現力は高いが計算速度が遅いアーキテクチャが採用されている。そのため、10万原子を超える大規模系の長時間シミュレーションの計算には、1年以上を要すると見込まれ、活用することが難しかった。

 一方、富士通では、材料計算プラットフォーム「SCIGRESS」などの材料計算プラットフォームを数十年前から開発してきた他、スーパーコンピュータなどで必要な大規模計算技術を研究している。「『富岳』をはじめとするスーパーコンピュータなどのハードウェアだけでは顧客に価値を届けられない。そのため、当社のコンピューティング研究所では、ハードウェアを稼働させるためのアプリケーションやミドルウェアの改良や開発を進めている」(坂井氏)。

 そこで同社は、ハードウェア向けのアプリケーションやミドルウェアの開発で培った知見を生かして、MDシミュレーション向けNNPの自動生成ツールであるGeNNIP4MDを開発した。

「GeNNIP4MD」の概要 「GeNNIP4MD」の概要[クリックで拡大] 出所:富士通
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