化学工学は、実験室規模で確立した化学的プロセスを産業規模で実現するための工学分野です。規模が大きくなると不都合が生じやすく、ビーカーやフラスコとは異なる工業的に最適化された構造をしています。今回はプラントの主要な構成要素である槽、塔、熱交換器を紹介します。
実験室では、ガラス製のビーカーやフラスコが主な実験器具として使用されます。ガラスは化学的に安定で、多くの化学反応に対して耐性があります。しかし、ガラスを産業規模で利用するには脆く、耐圧性や耐熱性に限界があります。さらにサイズが大きくなる関係でガラスでは製造が困難になります。そのため、プラントではステンレスや炭素鋼などの金属材料が主に使用されます。
耐食性(腐食耐性)を求める場合、ステンレスの中でも耐食性の高い材料を用いたり、ハステロイのような高い耐食性がある材料を選択したりします。価格は当然高くなりますが、それでもガラス器具が選ばれる状況はほとんどありません。なお、グラスライニングという金属へガラスコーティングしたような材料はあります。
ガラスではなく金属が使われるということは、実験室と異なり外からは系内の状態が見えなくなるということを意味します。この問題を解決するために、化学プラントでは温度計や圧力計、液面計(液深を測定する)など、さまざまなセンサーが取り付けられています。
小さなフラスコで行われる反応を大規模に行う場合には、容器は「槽(そう)」もしくは「タンク」と呼ばれる大型の円筒形の容器が用いられます。槽内部の混合効率や熱伝達を化学工学的に計算し、槽の長さや直径などの設計が行われます。槽には「反応」を行う反応槽だけでなく、物質を溜める貯槽、複数の物質を混ぜ合わせる混合槽などもあります。槽の目的に応じて内部で「反応」「撹拌」「伝熱」「晶析」「抽出」などさまざまな化学工学処理が行われます。
槽の中では「撹拌」の操作も行われます。実験室では主にマグネティックスターラーを用いて撹拌子を回すことで混ぜます。これに対して産業規模では撹拌機が用いられます。槽内にプロペラのような形状の撹拌翼(かくはんよく)を入れ、槽の外から軸(シャフト)を介してモーターとつなぎ回転させます。
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