田中氏は、2025年1月に米国ラスベガスで開催された「CES 2025」におけるグローバルなフードテックの最先端トレンドも紹介。
CESでは、2022年にフードテックが正式なカテゴリーになり大きなインパクトになった。田中氏は「最近はフードテックやアグリテックと分けるのではなく、『アグリフードテック』といわれるようになってきた。『あったらいいもの』から、産業課題を解決する『なくてはならないもの』へと変わってきている。2025年はついに『統合型ライフソリューション』というキーワードも出て、テックカテゴリーを超えた生活者体験の一要素にもなり始めている」と認識の変化を指摘した。
2024年からCESの最大のテーマはAIになっているが、田中氏が最も注目するのは、家庭内のAI情報のハブになりつつある冷蔵庫とテレビだ。
「韓国のLGエレクトロニクスはAIを『Affectionate Intelligence』、愛情あふれる知性と再定義して強化している。AIが冷蔵庫の食材を確認してレシピを提示するだけでなく、例えば『あなたの弟はまだ寝ているけど、何か作りますか』と感情に寄り添って先回りするようなソリューションを提案する機能まであり、ワクワクさせてくれた」(田中氏)
また、「日本ではテレビは“オワコン”のイメージもあるが、今になって生活者との接点になることが再び注目されている。米国ではディスプレイ付き冷蔵庫がすでに売り場に並んでいる。もともとディスプレイメーカーだった中国のハイセンスも欧州の家電メーカーを次々と買収し、AIを搭載したスマート家電を投入している」とテレビやディスプレイが再注目されているトレンドも明かした。
日本でも食農領域におけるイノベーターが増加し、第二ステージに入りつつある今、食があらゆる産業の交点となり、多様な人材が集う産業へ進化する状況をつくるにはどうしたらいいのか。
田中氏は「個々が単独に動いても食農の社会課題は解決できない。そのためには、まず全体像を理解し、日本に眠る食の可能性を可視化することが大事だ」と指摘。さらに大切な観点として、「食の多様な価値を理解するためには、人間社会の深い洞察が必要だ。人文/社会科学の視点も大事になってくる。その上で、個人や働き手、企業、取引先、市場、産業などが集う共創エコシステムの確立が必要だ。外に出て外部組織と共創することが重要だ」と話した。
具体的なアクションとしては、田中氏が主宰するSKS JAPANや2025年5月に初開催された「北海道フードイノベーションサミット」などの活用も提案し、「共感する仲間を見つけ、一歩を踏み出す場が必要だと思う。そして最も重要なのが、業界や国境などの垣根を超えて、群れで動くことだ。海外では日本の大豆食文化、海藻食文化も非常に注目されており、日本に眠っている技術、文化を活用した加工品を輸出することもできるはず。日本の可能性を信じて、新産業創出を目指していこう」と聴衆に呼びかけた。
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