フードテックへの投資は2022年以降低迷しているとされているが、田中氏は欧州市場のデータを基に「コロナ禍で一気に広がったフードデリバリーやゴーストキッチンなどの領域は確かに落ち込んでいるが、実はフードサイエンスや農業など、食農課題を解決するコアに対する投資件数は落ち込んでいない」と指摘。そうした状況の中、進化の予兆として「代替から新食材へ」「フードAIの衝撃」など8つのトピックスを挙げた。
田中氏は、グローバル大手が代替プロテインを肉の代替ではなく、新しい食材として再定義して本格的な開発強化に乗り出していると述べた。そして、シンガポールのプロテインイノベーションセンターで、Buehler(ビューラー)が開発した最新の機械を使って作られた、プラントベースで構成された最先端食材を試食した際の感想を「びっくりするくらいおいしかった」と振り返った。
代替プロテインの技術開発では、アマゾン創業者が設立したベゾス・アース・ファンドなどが中長期を見据えた投資をしており、「今まではベンチャーキャピタルが投資をすることが多かったが、近年は大手による財団や公的資金も動くようになってきた。もはや代替ではなく新しいジャンルとしての可能性を感じる」と潮流の変化にも触れた。
フードAIについては、2023年から米国で開催されている「Food AI Summit」の動向も踏まえながら、マヨネーズやミルクなどを植物由来原料で再現するノットコ、AIによるレシピサービスを行うサムスンフードなど最先端の事例を紹介。
田中氏は「ノットコはこれまで1年半〜2年かかっていた試作品の開発期間を、AIを活用することで従来比7分の1となる3〜6週間に短縮した。そのケイパビリティは、同社が食品世界大手のクラフトハインツとジョイントベンチャーを設立したことにも表れている」とイノベーションが起きていると説明。
AIを活用したレシピサービスでは「サムスンフードが最も進んでいる。ユーザーの好みに基づいた料理だけでなく、環境負荷が少ない食材のレシピなども提示してくれるところまで進化している」と明かし、「食×AIという動きは、これからどんどん加速するはずだ」と語った。
また、日本においてもユニークなプレイヤーが増えており、特に田中氏は東京建物が東京の八重洲で運営する「GIC Tokyo」や、日本橋を舞台に三井不動産が手掛ける食のイノベーション創出プロジェクト「&mog」など、デベロッパーの動きに着目。
GIC Tokyoは、スペインの料理アカデミーであるバスク・クリーナリー・センターの拠点になっていて、料理スキルを学べるワークショップなどが行われている。&mog(アンド・モグ)は三井不動産と三菱UFJ銀行がMOU(基本合意書)を締結し、旧財閥の枠組みを超えた取り組みとして話題になった。「東京の新橋・虎ノ門エリアでは『Food α(フーダ)』、地方でも秋田県男鹿市の『稲とアガベ』など、街をあげて食を盛り上げようとする動きが出てきている。ユニークなプレイヤー同士がつながって、新たなビジネススキームを作る第2ステージに入っている」と語った。
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