米国の関税影響は自動車業界全体で「340億ドル」、1台1800ドルの負担電動化(2/2 ページ)

» 2025年06月30日 08時30分 公開
[齊藤由希MONOist]
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中国

 中国市場は安定的に販売台数が増えていきそうで、2030年には3000万台の大台に乗ると見込む。中国現地の自動車メーカーのシェアは76%まで上がり、日本を含む外資の自動車メーカーは継続的にシェアを落とす。サプライヤーは中国市場の戦略を大きく変える必要に迫られそうだ。中国市場のEV比率は上昇し、2024年の27%から2027年には36%、2030年には50%まで増加する。レンジエクステンダー付きEVも比率が上がるが、PHEVやHEVは横ばい。エンジン車の比率は足元の50%から2030年には19%まで減少する。

 中国市場では価格競争が厳しい。車両本体価格の値引きだけでなく、車両保険の補助、現金補助、ゼロ金利ローン、ADAS(先進運転支援システム)の無償提供などが行われている。ADASの装着率は45%まで向上したが、機能面ではまだ外資勢に優位性があるという。

 中国はレアアースに輸出規制をかけている。モーターをはじめとするレアアース使用部品の価格上昇は避けられない状況になると見込んでいる。レアアースはさまざまな自動車部品に使われるが、調達先を中国以外の地域に代替するのは簡単ではないという。また、レアアースフリーのモーター開発なども時間がかかる。駆動用モーターの価格上昇が進むことで、他の部品で付加価値が低いものに対する価格低減圧力が強まるとみられる。

欧州、日本、韓国

 2025年の欧州市場は前年比で微減となるが、2030年まで緩やかな成長を見込む。ただ、2030年に向けて中国車のシェアが上がり、欧州車がシェアを落とす(日本車は横ばい)。中国勢は欧州で現地生産を加速しており、現在3カ所の工場が新設予定である他、5カ所が検討中となっている。

 日本と韓国では、コストや利便性、環境性能のバランスが取れたHEVが引き続き主流になる見通しだが、レンジエクステンダー付きも含めたEV比率も上昇する。日本は2030年に20%、2035年に40%に増加し、韓国は2030年に18%、2035年に45%と見込む。

 日韓でEVが増加する要因は、韓国では政府のバッテリー強化策による生産拡大や研究開発投資の促進が、日本ではBYDによる軽自動車タイプのEVの投入や、日系自動車メーカー各社の全固体電池の開発などがある。ただ、HEVの競争力が高いため、EVの価格や走行可能距離が大きく改善しない限りは消費者がHEVを優先する。充電インフラの不足やバッテリーの火災なども消費者の懸念として残る。

中国自動車メーカーだけが利益面で厳しい状況に

 コロナ禍では、自動車メーカーが値上げを実施したこともあり、サプライヤーよりも自動車メーカーの方が財務状況は良好だった。2024年にはサプライヤーの方が利益を確保しやすい状況に逆転している。自動車メーカーは原材料価格や販売管理費の影響を受けている。特に中国では、稼働率や値引きにより慢性的に利益が伸び悩む自動車メーカーに対し、サプライヤーは健全な収益性を維持している。

 2024年の利払い前/税引き前/減価償却前利益(Earnings before Interest, Taxes, Depreciation and Amortization:EBITDA)は米国の自動車メーカーが7.7%、サプライヤーが10.8%、欧州の自動車メーカーが10.2%、サプライヤーが10.3%、日韓は自動車メーカーが12.0%、サプライヤーが10.3%となっている。中国はサプライヤーが12.9%だが、自動車メーカーが5.2%で差がついている。

 自動車関連のM&Aは低調だが、買収される欧州企業は増えている。2022年以降、外国企業による欧州企業の買収額は130億ドル(約1兆8700億円)に上る。売却した企業はドイツやイタリア、スペインに多い。また、さまざまなサプライヤーが現在もM&A市場に出ている。

中国のスピード感

 中国の自動車産業について、よく話題に上がるのが新車投入期間の短さだ。

 アリックスパートナーズは2年前に中国自動車業界のオペレーションモデルの分析を発表したが、現在はそれがさらに高度化されているという。高いリスクも許容しながら見切り発車的にスタートすることで短期間での製品投入を継続している。ソフトウェアでは、ビークルOSの開発やAIの活用を推進。迅速な意思決定のため、現場にも権限を委譲しているという。モジュール式の設計や部品の共通化、先代モデルからの部品流用、ソフトウェアの再利用も積極的に進め、早期投入のためのデザインを推進している。

 こうした取り組みの結果、伝統的な外資系の自動車メーカーに比べて、中国の新興EVメーカーは半分の期間となる20カ月で新型車を投入している。伝統的な自動車メーカーも、コンセプト企画、設計や製品の検証、ソフトウェア管理などでAIツールを活用することで、開発期間を最大8カ月短縮できるとしている。

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