米国の関税影響は自動車業界全体で「340億ドル」、1台1800ドルの負担電動化(1/2 ページ)

アリックスパートナーズはレポート「2025年版グローバル自動車業界見通し」を発表した。2025年の世界の新車販売台数は、米国や欧州での販売減少を、中国を含むアジアの販売拡大で相殺することで前年比1%増にとどまると見込む。

» 2025年06月30日 08時30分 公開
[齊藤由希MONOist]

 アリックスパートナーズは2025年6月26日、レポート「2025年版グローバル自動車業界見通し」を発表した。2025年の世界の新車販売台数は、米国や欧州での販売減少を、中国を含むアジアの販売拡大で相殺することで前年比1%増にとどまると見込む。

 2025年の中国の新車販売台数は前年比3%増となる。中国の自動車メーカーやサプライヤーは中国国外での事業拡大を積極化するとみられ、欧州での現地生産を推進し、2030年までに年間生産台数を80万台増に引き上げる。2030年までに欧州市場での中国自動車メーカーのシェアは足元の2倍の10%に拡大すると予測する。この影響を受けて、欧州の自動車メーカーは40万台分の生産能力を削減する可能性があり、サプライヤーは180億ドル(約2兆6000億円)以上の資産を処分すると試算した。

 レンジエクステンダー付きを含むEV(電気自動車)は2030年までにグローバルで45%のシェアを占めると予測する。ただ、米国では環境規制の変化などにより、EVのシェアは2024年比46%減の23%と見込む。

各市場の動向

 新車のグローバル市場は、2030年にかけて徐々に増加していくと予測した。EVは2030年までに全販売台数の3分の1を占めると見込む。また、2030年のシェアはエンジン車が32%、HEV(ハイブリッド車)が23%、PHEV(プラグインハイブリッド車)が7%、レンジエクステンダー付きEVが5%と予測している。2025年から2030年にかけて、販売増加をけん引するのは中国と東南アジアだ。中国自動車メーカーの販売台数が増えることでEVの比率が上がっていく。

米国

 米国市場は2025〜2026年に販売が減少するが、その後は2030年にかけて微増を見込む。EVの販売比率の見通しは、2024年時点の予測から46%減で大幅に下方修正した。米国ではEVの新型車は継続的に市場投入される見込みだが、EV1モデル当たりの売り上げはEV以外のパワートレインの車種よりも少なくなる。EVをつくってもなかなか利益が出ない状況が続きそうだ。

 米国ではカナダから多くの自動車部品が輸入されていたが、関税の影響で輸入量が減っている。中国からの部品も米国に入ってこないため、結果的にメキシコからの数量が増えている。交渉後の関税は、日韓や欧州から米国に輸入するよりも、カナダやメキシコから輸入する方が有利になると予測する。

 関税引き上げにより、自動車メーカー各社には合計で340億ドル(約4兆9000億円)のコスト増加が発生するとみられる。このうち8割を販売価格に転嫁し、残り2割を自動車メーカーが負担すると、1台当たり1800ドル(約26万円)近いインパクトになると試算した。

 短期的な対策としては、関税率を定めるHTSコードの乗り換えの他、価格の交渉、関税のかからない地域からの調達などがある。米国に生産拠点を持つ自動車メーカーやサプライヤーは、生産性改善や設備投資、自動化などを推進して生産量を増やし、地産地消モデルを作っていくことも対策として考えられる。中長期的にはサプライチェーンの抜本的な見直しが必要だ。米国の生産体制を強化する一方で、コストの高い地域の工場を閉鎖することも検討の余地があるとしている。

 日系サプライヤーは、米国に生産拠点があるかどうかで二極化が進みそうだ。ティア2以降のサプライヤーは米国進出が難しく、これまで日本で受けていたビジネスが米国に移ると受注できない可能性がある。進出後は米国内での差別化を図る必要があり、付加価値の低い部品を手掛けるサプライヤーは米国進出自体がリスクになりかねない。

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