最後に、エネルギー法による音振動モデルのマトリクス表現を考える。音振動(エネルギー法)も図8に示すように電気、熱、流れと共通表現を有している。
図9に、2つの部屋と部屋間の壁からなる3自由度の音振動問題をエネルギー法で定式化した結果を示す(参考文献[3])。1つの部屋に音源があった際に、もう1つの部屋に音がどう伝わるかという音振動連成問題である。
図9の式をマトリクス表現すると図10となる。
図10に示すように、相反定理によりηijNj=ηjiNiが成り立つことから、この場合もマトリクスの中身は対称行列となる。
以上、フロー図⇒定式化⇒マトリクス表現という手順でマトリクス表現でき、マトリクス表現自体がフロー図と定式化の良いところを併せ持っていることが分かった。だが、定式化を経るプロセスは面倒である。そこで、フロー図からマトリクス表現が直接できないかを、熱を例に考えてみる。
図2の要素1に電流則を適用すると、
が成り立つ。これを変形すると、
となる。同様の手順を要素2、要素3に適用し、3つを統合すれば前述のマトリクス表現が得られる。一見すると、電流則のみで電圧則を使っていないように見えるが、実際にはフロー図からマトリクス表現を構築する際に、頭の中で処理しているのである。
どの手順で問題を解くかは個人の自由であるが、今回示した方法は、要素数が2ないし3で、それでもマトリクス表現の方が分かりやすいように思う。特に、要素が10以上になると、定式化の式の数は膨大となり、式のコーディングに時間がかかり、ミスも増える。
その点、マトリクス表現はある程度機械的に作業を進めることが可能であり、作業時間やミスの発生を抑えることができる。ただし、以上のことは本質的ではなく、大規模なモデルを作成する場合には、「Modelica」で固有のライブラリを自作して、モデルを作り、そのまま解析する方法が考えられる。しかし、これは本連載の範囲を超える内容といえる。
次回は、製品のモデリングの勘所について考える。 (次回へ続く)
大富浩一(https://1dcae.jp/profile/)
日本機械学会 設計研究会
本研究会では、“ものづくりをもっと良いものへ”を目指して、種々の活動を行っている。1Dモデリングはその活動の一つである。
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