Linux FoundationとJASAがウェビナー「組込みシステムでのOSSの潮流とSoftware Defined時代に求められるソフトウェアエンジニア像」を開催。冒頭の講演「世界はOSSでできている」では、自動車をはじめとする国内製造業において組み込みソフトウェアエンジニアが果たす重要性について訴えた。
Linux FoundationとJASA(組込みシステム技術協会)は2025年3月12日、オンラインでウェビナー「組込みシステムでのOSSの潮流とSoftware Defined時代に求められるソフトウェアエンジニア像」を開催した。冒頭の講演「世界はOSSでできている」では、Linux Foundation 日本代表の福安徳晃氏と、サイバートラスト 副社長執行役員でJASA 理事・副会長の佐野勝大氏が登壇し、自動車をはじめとする国内製造業において組み込みソフトウェアエンジニアが果たす重要性について訴えた。
自動車開発においてソフトウェアの果たす役割は加速度的に大きくなっており、ソフトウェアによって機能や価値を定義するSDV(ソフトウェアディファインドビークル)という言葉も広く用いられるようになっている。
これまで自動車で用いられるソフトウェアといえば、走る/曲がる/止まるといった機能と関わる制御システム向けの組み込みソフトウェアが中核を担ってきた。しかしSDVにおいては、OTA(Over the Air)による無線でのソフトウェアアップデートや、自動運転技術などとの関わりを含めてクラウドとの連携が必要になってくる。組み込みソフトウェアエンジニアがこれまであまり関わりを持たなかった、いわゆるクラウドネイティブなソフトウェア開発との融合が求められているのだ。そしてこのトレンドは自動車分野だけにとどまるものではなく、工作機械や製造装置などの産業機器分野でも同様の傾向になっている。
Linux Foundationの福安氏は「モダンなソフトウェア開発では、Linuxに代表されるOSS(オープンソースソフトウェア)がコード全体の9割を占めるようになっている。国内の基幹産業である自動車でも同様の傾向であり、IVI(車載情報機器)のOSとしてLinuxが支配的になっている。SDV時代に入っても、さらにソフトウェアドリブン、オープンソースドリブンになっていくだろう」と語る。
このような状況下で自動車業界も強くソフトウェア人材を求めている。福安氏は、トヨタ自動車が国内IT企業の拠点が集中する南武線沿線で展開したソフトウェア人材募集の駅広告や、ホンダが業界不問でソフトウェア人材を募る広告などを紹介。「自動車の価値を高めるためにソフトウェア人材が必要な一方で、なかなか充足できないことが課題になっている」(同氏)とした。
このように、自動車業界を中心に実際に国内製造業では組み込みソフトウェアエンジニアの不足が深刻化しているのが実情だ。JASAの佐野氏は「自動車のSDVだけでなく、無線通信のvRAN(仮想無線ネットワーク)におけるAI(人工知能)活用など、ソフトウェアディファインドな世界は広がっている。このソフトウェアディファインドな時代に向けて、ITシステムと組み込みシステムの垣根を超えたフルスタックエンジニアの育成が急務だ」と強調する。
一説によると、社会をデジタル化する上で人口の少なくとも1%、できれば3%くらいのソフトウェアエンジニアが必要になるとされている。この考え方に基づくと、2030年に必要とされる国内のソフトウェアエンジニア数は約170万人で、現在のペースでは約40~80万人が不足する見込みだ。ソフトウェアエンジニア全体に対する組み込みソフトウェアエンジニアの比率は約10%といわれており、2030年に全体と同程度の人材不足に陥る可能性が高い。「特にクラウドとエッジをフルスタックでこなせるオープンソース系エンジニアが非常に重要になると考えている」(佐野氏)という。
国内の組み込みソフトウェア業界では、1990年代後半からLinuxの採用が始まったものの、LinuxをはじめとするOSSの利用が広がったのはここ数年のことだ。例えば、ハイエンドの組み込み機器のOSとしてこれまではWindowsの採用が多かったが、近年はLinuxの採用が急速に進んでおりWindowsとの逆転現象が起きている。佐野氏は「2025年中に、ハイエンドの組み込み機器ではLinuxの採用が7割近くまで伸びるだろう。また、リアルタイムOSが用いられる組み込み機器でもLinuxが採用されるようになっている」と述べる。
しかし、LinuxなどのOSSを用いたソフトウェア開発に対応できる組み込みソフウェアエンジニアの増加は需要に対して追い付いておらず、常に不足している状況だ。
そこでLinux FoundationとJASAは2024年11月、国内における組み込みソフトウェアエンジニアの育成とスキル向上を目的とした教育分野での協業に関するMoU(基本合意書)を締結した。両組織とも、これまでソフトウェアエンジニアを育成するプログラムや認定制度などを展開してきたが、今回のMoUに基づいて両組織の強みを生かした新たな組み込みソフトウェアエンジニア育成スキームを構築する。
2025年度は、Linux Foundationが持つLinuxおよびOSSに関する専門知識、JASAが持つ組み込みシステム技術に特化した教育/啓発プログラムと国内での豊富なネットワーク/産学官連携のノウハウを融合し、次世代の組み込みソフトウェアエンジニア向けの新たなトレーニングプログラムと認定制度の共同開発を進める。佐野氏は「国内の組み込み業界でOSSを学びたいと考える方に活用していただけるよう両組織で検討を進めているところだ。正式発表できる段階になれば広くお知らせできるようにしたい」と述べている。
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