ホンダは新事業創出プログラム「IGNITION」発のスタートアップ企業「UMIALE」の設立を発表した。
ホンダは2025年3月26日、新事業創出プログラム「IGNITION(イグニッション)」発のスタートアップ企業「UMIALE(ウミエル)」の設立を発表した。新会社は自律航行型無人船(ASV、Autonomous Surface Vehicle)を開発、販売するとともに、海洋データの収集や分析、提供などを行う。2024年4月から事業を開始する。
イグニッションプログラムは2017年にスタートした。トータルで1000件以上の応募があった中、ウミエルは4例目の事業となる。日本国内のホンダ正社員が誰でも応募できる。1次審査を通過すると専門スキルを持つ社内人材によるタスクフォースチームが結成され、応募者の事業開発をサポートする。
2次審査を通過すると応募者のアイデアが事業化できる。スタートアップとして起業する場合と、ホンダ本体とのシナジーのためホンダとしての新事業として立ち上げる場合がある。起業した場合は、ホンダからの出資を受けたり、ホンダ本体と連携や協業したりすることもできる。審査過程ではベンチャーキャピタルによるアドバイスも受けられる。
ウミエルを創業したのは、2015年に新卒でホンダに入社した板井亮佑氏。そのままウミエルの代表取締役CEOを務める。「スーパーカブ」の開発の経緯に憧れ、本田宗一郎のように生活や仕事の役に立つものを生み出したいとホンダを志望した。本田技術研究所に配属され、電動モビリティやロボットの車体設計業務に携わった。2023年にイグニッションプログラムに「海の見える化」を提案し、起業を勝ち取った。学生時代は人力飛行機の開発に取り組んだ。ホンダ入社後も業務外活動として水中翼船を開発したり、自発テーマとして船体姿勢制御技術を研究したりしてきた。
イグニッションに応募した時点で板井氏はASVに必要な技術にめどをつけていたが、誰の課題を解決するかが明確ではなかった。当初は漁業向けの魚群探索サービスとしてイグニッションに応募したが、インタビューや仮説検証を重ねて海洋観測をターゲットに変更した。海洋観測は今のところホンダの既存事業とはシナジーがないため、ホンダの新事業ではなく起業での事業化となった。
海洋観測は、地震や津波の予測、海底資源の探索、水産資源の管理、水産養殖、安全保障、海洋エネルギー開発、気象や海象(風、波浪、潮位)の分析などさまざまな領域で求められている。風力発電など洋上建設のアセスメントにも必要だ。
ただ、現在の海洋観測は建造に数百億円がかかる調査船を使うのが主だ。調査船の数が限られる一方で海洋観測を必要とする研究テーマは多く、争奪戦になっている。調査船の運用には1日あたり500万〜1500万円がかかるなど、コストの負担が大きい。ウミエルは、既存の調査船よりも安価で手軽なASVを提供することで、海洋観測の頻度やエリアを拡大していくことを目指す。
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