自律航行型無人船でホンダ社員が起業、海洋観測を安価で手軽に船も「CASE」(2/3 ページ)

» 2025年03月27日 09時45分 公開
[齊藤由希MONOist]

 例えば、地震の影響などを調べる海底地殻変動の調査は、太平洋側の65カ所に設置された海上保安庁の海底基準局を音響測距することで行う。調査船に搭載したGNSSによる測位と組み合わせて海底基準局の位置を測定する。

 「地震の直後などは、研究者がすぐに海底基準局の調査に向かい、地震前からどれほど動いたかを把握したい場面だ。ただ、海上保安庁が保有する調査船はさらに重要度の高い任務についている場合もあり、地震の研究にタイムリーに使用することが難しい。ASVなら即時性が求められる調査にも対応できる」(板井氏)

海底基準局の観測イメージ[クリックで拡大] 出所:ホンダ

 また、ASVを活用することで65カ所の海底基準局の観測頻度も向上させることが可能になる。有人調査船が数カ月に1回しか観測できないところを、全ての海底基準局を毎月巡回することもできるようになる。きめ細かい調査は地震のメカニズム解明や南海トラフ地震など巨大地震の防災や減災にもつながる。観測頻度が向上できれば、政府が海底基準局を増やしてよりきめ細かい調査を行うことも考えられる。

 1台のASVでも観測できるが、ウミエルは複数台のASVを連携させることで高頻度かつ高密度な観測を実現することも可能だとしている。防災や減災だけでなく、海洋生態系の調査や、ブルーカーボン(※)の定量化にも貢献するという。

(※)海底や深海に蓄積される炭素のこと。海洋生態系が光合成によってCO2を取り込む

ウミエルのASV

 ウミエルのASVは、水中翼を用いた独自の船体姿勢制御技術により、高速かつ高効率な航行を実現する。水面に船体を浮かせながら進むため、抵抗を大幅に減らせる。船体は船舶規制に該当しない全長3m以下で、船速3ノットを目指す。競合他社の製品は、速度を上げるために船体も大きくなる傾向にあったが、小さくスピードを出せるASVにより、他社との差別化を図る。

 ASVにはAIS(Automatic Identification System)受信機を搭載し、周囲の船舶を自動で回避する機能も実装する。競合他社が数千万〜数億円の価格帯で製品を展開しているため、「そこに競争力を持てる価格を検討している」(板井氏)

 日本近海のように潮の流れが速い海域でも安定して海洋観測ができる点も強みにする。海洋観測向けのASVは米国など海外勢が競合となる。ただ、海外製のASVでは日本近海の潮の流れに負けてしまうこともあるという。「日本近海に対応できれば海外展開でも強みになる」(板井氏)

開発中の様子[クリックで拡大] 出所:ホンダ

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