100年に一度の変革期にさらされている日本の自動車業界が厳しい競争を勝ち抜くための原動力になると見られているのがSDVだ。本連載では、自動車産業においてSDVを推進するキーパーソンのインタビューを掲載していく。第1回は経済産業省が発表した「モビリティDX戦略」でSDV領域を担当した吉本一貴氏に話を聞いた。
製造業のDX(デジタルトランスフォーメーション)が進みつつある中で、トヨタ自動車を率いる豊田章男氏によって印象付けられた「100年に一度の変革期」という言葉に代表される通り、自動車産業も大きな変革の波にさらされている。
その変革の波を端的に示す言葉として知られるのがダイムラーが2016年9月のパリモーターショーで提唱した「CASE」(コネクテッド、自動運転、サービス/シェアリング、電動化)だ。そして、このCASEの推進を支える原動力になると見られているのがSDV(ソフトウェアデファインドビークル、ソフトウェア定義型自動車)である。
そこでMONOistでは、自動車産業においてSDVを推進するキーパーソンのインタビューを掲載する連載「SDVフロントライン」を企画した。第1回は、2024年5月に経済産業省が発表した「モビリティDX戦略」において、SDV領域を担当した同省 製造産業局 自動車課 課長補佐(DX担当)の吉本一貴氏に、日本政府が目指すSDVの成長戦略などについて聞いた。
MONOist 今回発表したモビリティDX戦略はどのような背景から策定するに至ったのでしょうか。
吉本氏 もともと経済産業省と国土交通省の主催で2015年2月から「自動走行ビジネス検討会」を実施してきた。この検討会では、日本国内で自動走行をどのように実現するかについて産学官の協力の下、さまざまなテーマで検討を進めていた。
課題が洗い出されていく中で社会情勢も大きく変化を遂げ、自動走行だけにとどまらない形で自動車産業の変革を実現していくためには、より視野を広げた取り組みが必要になると考えた。そこで、自動走行ビジネス検討会の主題である自動運転などを含めた「モビリティサービス」に「SDV」と「データ利活用」を加えた3領域が、自動車産業の変革を推進すると考え、2023年度に新たに発足したのが「モビリティDX検討会」だ。
そして、自動走行ビジネス検討会からの活動を引き継ぐとともに、新たにSDVとデータ利活用をテーマとしたワーキンググループの成果をまとめたのが2024年5月に発表したモビリティDX戦略になる。
また、モビリティDX戦略を策定する上で大きな影響を与えたのが、先行して進んでいたGX(グリーントランスフォーメーション)戦略だ。2021年6月に発表した「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」では、2035年までに国内の乗用車における新車販売を電動車(電気自動車、燃料電池車、プラグインハイブリッド車、ハイブリッド車)100%にすることを決めた。このGXと並ぶ形で、DXが自動車を中心とするモビリティの大きな競争軸になっていく以上、今回のようなモビリティDX戦略を策定する必要があると考えた。
MONOist モビリティDX戦略では自動車産業の変革を推進する3つの領域の一つとしてSDVを定めました。SDVによってどのようなことが実現できると考えていますか。
吉本氏 SDVが実現する価値としては大まかに分けて3つを想定している。1つ目は開発の効率化だ。ハードウェアとソフトウェアの分離によって、これまではさまざまな部品をすり合わせて調整することで実現していた機能をソフトウェアで扱えるようになる。
2つ目は、スマートフォンと同様に、最新の機能をOTA(Over the Air)でアップデートして提供できるようになることだ。そして3つ目は、これまでの車両売り切り型のビジネスにとどまらない、サブスクリプションサービスなどによる新しいビジネスが起こるきっかけになるとだ。クルマから生まれるデータを使って、テレマティクス保険などのビジネスが立ち上がってくるだろう。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.