前項で述べたように、パワーフローで考える音振動では、結合損失係数を定義する必要がある。結合損失係数は、要素の特性と接続する要素との接続関係により、表1のように定義される。例えば、板→音場の結合損失係数は表1に示した通りであるが、逆に、音場→板の結合損失係数ηjiは、相反定理ηijNi=ηjiNjから求めることができる。この場合、対象とする周波数域の板のモード数Niと、音場のモード数Njが必要となる。構造体、音場のモード数は、通常の固有モード解析で求められる。
板間の結合を考えると、表1中の透過率は簡略表現で図6のように定義できる。透過率は板厚比率とその結合状態で決まり、同じ板厚の構造物が同一平面で結合している場合には「1」、直角に結合している場合には「0.5」となり、直感的に理解できる値である。
以上の知見を基に、図2の6つの長方形板から構成される板構造物の振動問題を考える。この場合、板と板の結合のみなので、結合損失係数は表1から表2となる。ここに、曲げ波の群速度は曲げ波の速度の2倍で、曲げ波の速度は角周波数を波の数で割った値で、板の場合は表2の下部に示す式で表現できる。透過率は図6から、その他のパラメータである各要素の面積、各要素間の結合長さは形状から定義可能である。
図2の板構造物のパワーとエネルギーの関係式を図4のマトリクス形式で表現すると図7となる。結合損失係数は表2を変形すると、
となる。このように、対象としている要素の物性値(縦弾性係数、密度、ポアソン比)と面積、つながっている要素間の結合長さ、透過率から結合損失係数は算出できる。
ここで、構造物は各辺1mの立方体構造とし、板厚は全て0.001m、材料はステンレスとして、要素①に単位パワーを入力したときの、周波数1000Hzの場合の、各要素のエネルギーを求めると図8となる。このとき、内部損失係数はη=0.003とした。このように、入力部の要素のエネルギーが最も大きく、周辺に伝搬していくに従って、各要素のエネルギーが小さくなっていく様子が分かる。このエネルギーを図5の定義に従って計算すれば、各要素の振動速度の時空間平均値を知ることができる。
以上の考察から、熱、流れと同様に音振動をパワーフローで考えると、表3のように電気、熱、流れと対比して考えることができる。
そこで、表3の表記法に従って、フローで考える音振動をモデル表現すると図9となる。
次回は、図9の表現を用い、フローで考える音振動のモデリングを幾つかの音振動問題に適用した事例を紹介する。 (次回へ続く)
大富浩一(https://1dcae.jp/profile/)
日本機械学会 設計研究会
本研究会では、“ものづくりをもっと良いものへ”を目指して、種々の活動を行っている。1Dモデリングはその活動の一つである。
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